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懲戒免職

【担当事件・勝訴維持のご報告】糸島市・市消防本部消防長事件 福岡地判令和4年7月29日 労働判例1279号5頁の控訴審

懲戒免職

1 控訴審でも勝訴維持

 私が担当している糸島市・市消防本部消防長事件(福岡地判令和4年7月29日労働判例1279号5頁)の控訴審判決が昨日24日にありました。

 一審の福岡地裁は、懲戒免職を取消し、糸島市に対して、100万円の損害賠償を命じていました(消防本部のパワハラ、3人の懲戒処分取り消し命じる判決 福岡地裁 [福岡県]:朝日新聞デジタル (asahi.com))。

 この度、この控訴審である福岡高裁も、懲戒免職処分取消維持、損害賠償請求認容維持となりました。なお、損害賠償額は一審では100万円でしたが、控訴審では110万円が認められました。以下、判決のポイントをお伝えします。

2 ポイント

 ⑴ 「懲戒処分の適否は、非違行為と処分の内容が均衡していることが基本」と判示したこと

 本件は、消防署内でのパワハラ事案であり、かつ、被害者が多数とされているという点で、長門市・市消防長事件・最三小令和4年9月13日労働判例1277号5頁と共通していたところ(ただし、長門市は、分限免職の事案)、長門市の最判は「現に報復を懸念する消防職員が相当数に上ること等からしても、被上告人を消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難」などとして「免職の場合には特に厳密、慎重な判断が要求されることを考慮しても、被上告人に対し分限免職処分をした消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるということはできない。」と判断しておりました。

 本件で控訴人糸島市は、長門市最判を参考に、66名の消防吏員から、被控訴人の復職に反対する嘆願書を取得し、被控訴人が復職すると職場の秩序が維持できない旨の主張をしておりました。

 これについて、福岡高裁は「たしかに、 66名という多数の職員が、被控訴人の復職に反対したことは重く受け止めるべきであるが、懲戒処分の適否は、非違行為と処分の内容が均衡していることが基本であって、非違行為の職場に対する影響は判断要素のーつにすぎない。」と判示しました。

 この種の事件では、職場の職員から、復職反対の嘆願書が多数出されることが多いと思いますが、少なくとも、懲戒免職の事案においては、非違行為の程度を重視せずに、このような嘆願書を軸に免職が認められるということにはならないことが示されたと感じています。

 ⑵ 全体的にトレーニングの行き過ぎと意図的な加害行為を区別しようとしたこと

 判決では、「被控訴人の実施したトレーニングや訓練が、恒常的にトレーニングや訓練としての目的ないしは意義を喪失し、専ら部下や後輩に精神的、肉体的苦痛を与えることを意図し、いわゆるいじめやパワー・ハラスメントによって部下や後輩を支配する目的で実施されていたとまでは認めることはできない。」と判断しました。

 長門市の事件では、被処分者の行為の多くが、トレーニングとは無関係の加害行為と言わざるを得えないものであったように思います。

 トレーニングの行き過ぎか、意図的な加害行為か、という区別が重要な視点として本件の控訴審判決が示したものと考えられます。

 ⑶ ハラスメントの原因の一つとして消防職側の仕組みが不十分であったことを指摘したこと

 判決では「トレーニングや訓練が逸脱ないし過剰にわたった要因として、具体的で客観的、標準的な到達目標や目標に到達するための合理性のある標準的な手法や訓練の結果等を現場を含めた組織全体で共有する仕組みが構築されていなかったことも指摘できる」と指摘しました。

 トレーニングの行き過ぎが生じた原因について、組織側にも問題があったことが示されており、そのことは、被処分者の処分の重さを決めるにあたって考慮される要素であることが示されていると捉えられます。

 ⑷ 損害賠償請求が維持されたこと

 行政の処分が取消しになったときに、損害賠償まで認められるのは一般的に珍しいです。

 本件では、糸島市側が主張した多くの非違行為が事実認定されなかったこと、ハラスメントに該当するという非違行為についてもトレーニングの行き過ぎであり意図的な加害行為ではなかったと認定されたこと、それなのに、免職という最も重い処分が選択されたことが、国賠法1条1項の過失を基礎づける重要な事実であると思われます。

3 終わりに

 被処分者の言動の中に問題があったのは確かな事案です。反省してもらわなければなりません(実際に、ご本人は反省されています)。

 しかしながら、認定された事実とかけ離れた処分がされることがあってはいけません。特に免職となれば、職を失います。本件では約7年もの間、被処分者は消防士をできない状況が続いています。

 糸島市消防本部消防長において、適切な判断がされていれば、被処分者が長期間仕事を失うこともなければ、糸島市に対して損害賠償が命じられることもありませんでした。

 糸島市には適正な対応を求めたいと考えています。

 

幸せな生活を取り戻しましょう