【新改善基準告示】トラックドライバーの拘束時間・休息時間、違反の効果について解説します。
1 はじめに
トラックドライバー(運転手)の方から、「働く時間が長くてきつい」「休む時間が短くてきつい」という相談が多くあります。長時間労働で疲弊しないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。
これについては、【トラックドライバーの労働時間】働く時間が長くてきつい・・・何ができる? (fukuoka-roudou.com)にて4つのルールを説明しましたが、本日は、トラックドライバーについて特別の基準を定めている新改善基準告示について解説します。
2 新改善基準告示とは?またその特徴は?
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準を、一般的に「改善基準告示」と呼びますが、令和6年4月から適応された見直し後の改善基準告示を「新改善基準告示」と読んで説明します。
①新改善基準告示の特徴は、労働時間の規制ではなく、主に、拘束時間と休息時間に関する規制であるということです。この点で、36協定(の上限規制)、労災認定基準の規制と違いがあります。
3 拘束時間・休息期間の原則
新改善基準告示では、拘束時間と休息期間の原則を以下のとおり定めています。
⑴ 拘束時間の原則
ア 1年間の拘束時間
3,300時間とされています。平均するとひと月あたり275時間となります。
イ 1ヵ月の拘束時間
原則は284時間ですが、拘束時間の延長に関する労使協定があれば、1か月の拘束時間を310時間まで延長することができます。
この場合、1か月の拘束時間が284時間を超える月が3か月を超えて連続しないものとし、1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努めるものとするとされています。この考え方を図示いたものが以下の図です。
実際にどのくらいの時間働いたら改善基準告示に違反するのかのイメージが湧きにくいと思いますので、具体的に週5勤務と週6勤務の場合で考えてみました。
下記の表のとおり、週5勤務の方ですと、拘束時間が1日の13.5時間程度ですと、月284時間、1日14.8時間程度ですと、月310時間になります。
週6勤務の方ですと、拘束時間が1日の11.4時間程度ですと、月284時間、1日12.4時間程度ですと、月310時間になります。
ウ 一日の拘束時間
1日(始業時刻から起算し24時間)について、13時間を超えないものとし、拘束時間を延長する場合は、1日についての拘束時間の限度(最大拘束時間)は15時間です。
⑵ 休息期間の原則
継続11時間を基本とし、9時間が下限となります。(休憩時間がないなら救急車(119番)と覚えるとよいかと思います。)
たとえば、週5勤務で月の拘束時間が310時間の場合、1日の拘束時間が約14.8時間になりますが、拘束時間の裏返しの関係にある休息期間は1日9.2時間となり、ギリギリOKという感じです。
4 拘束時間・休息期間の例外
新改善基準告示には様々な例外がありますが、重要なものを解説します。
⑴ 拘束時間の例外(長距離貨物輸送の例外)
① 1週間における運行が全て長距離貨物運送(一の運行の走行距離が450km以上の貨物運送)であり、
かつ、
② 1週間において、1度、住所地以外の場所での宿泊を伴う運行がある
という場合には、
当該1週間において2回まで拘束時間を16時間に延長することができます。
ただし、拘束時間を16 時間まで延長した場合、一の運行終了後に必ず 12 時間以上の休息期間を与える必要があります。
なお、例えば、運行計画において上記条件を充たしていたとしても、実際に、一の運行で100㎞の移動にとどまった場合には、条件を充たさないことになるので、新改善基準告示違反となります。
⑵ 休息期間の例外(分割休息の例外)
業務の必要上やむを得ない場合で、勤務終了後に継続9時間以上(※但し、長距離貨物輸送の例外の場合には8時間以上)の休息期間を与えることが困難なときには、当分の間、一定期間(1か月程度を限度)における全勤務回数の2分の1を限度に休息期間を拘束時間の途中及び拘束時間の経過直後に分割して与えることができるとされています。要件は以下のとおりです。
「業務の必要上やむを得ない場合」とは、例えば、出発直前に荷主から着時刻の変更の申出があり、休息期間を分割せざるを得なくなった場合等がこれに該当するとされています。恒常的にこの制度が利用できるわけではありません。
5 改善基準告示違反の効果
⑴ 違反の効果
新改善基準告示違反があれば、下記の表の処分基準に従って車両停止処分がされることとなります。
⑵ 1カ月の拘束時間及び休日労働の限度違反は厳しい取扱い
特に、1カ月の拘束時間及び休日労働の限度違反は厳しい取扱いとなっています。この場合、通常の処分基準に基づく処分日車数に別立てで次のとおり処分日車数を算出し、合算します。
例えば、4人のドライバーが5カ月にわたって1カ月の拘束時間の限度違反をした場合には、
4人×5カ月=20事項の未遵守
となり、初違反の場合、通常の処分基準に基づく20日車に加えて、20日車の車両停止処分、合計40日車の車両停止処分となります。
このように1カ月の拘束時間と休日労働については厳しいルールになっています。
⑶ 車両停止処分は最大5割に
平成30年の時点で使用停止車両割合も増えており、最大5割になっています。1100日車停止という処分があったとして、10台ある営業所の場合、5台を20日間止めないといけません。
⑷ 違反により事業停止処分となる場合も
新改善基準告示が著しく遵守されていない場合等は事業停止処分となります。
「著しく遵守されていない場合」とは、「未遵守が1ヶ月間で計31件以上あった運転者が3名以上確認され、かつ、過半数の運転者について告示に規定する拘束時間の未遵守が確認された場合をいう。」とされています。
例えば、1日の拘束時間、1か月の拘束時間のルール、休日労働のルールのいずれも未遵守の運転者が3名以上確認され、かつ、過半数の者が1日の拘束時間のルールを一度でも遵守できていなかった場合などが考えられます。
このように強め違反には強いサンクションがあるので、違反があればしっかり指摘していきましょう!!