【担当事件】福岡県筑紫野市で働くトラックドライバー(運転手) 労働審判で残業代等約850万円が支われた事案
1 この事件のポイント
この事案のポイントは4つです。①歩合給から1運行ごとの固定給に変更されたことにより残業代が約5倍に増えたこと、②月120時間程度の長時間の残業(時間外労働)があったこと、③労働時間を立証する証拠は3か月分しか使わなかったこと、④整理解雇も争ったことです。
なお、この事案は令和4年10月に解決した事案です。
2 事案の概要
本件は、福岡県筑紫野市に営業所がある運送会社Yで働いていたトラックドライバーXが、令和4年2月に、会社から整理解雇され、その整理解雇が無効であることを争い、また、過去2年分の残業代を請求したものです。
ドライバーは、福岡と関東を行き来する仕事をしていました。
令和3年1月、それまで歩合給だったものが1運行ごとの固定給に変更になりました。令和3年前後を問わず、月の賃金は、残業代を含めずに50万円程度(40~60万円程度)でした。残業代は全く支払われていませんでした。会社の認識では、1運行ごとの固定給の中に残業代を含めているつもりだったようです。
会社Yは福岡営業所を閉めるということでXを解雇しましたが、福岡営業所を閉鎖しなければならないほどに売上げが下がったのかを説明しておらず、また、Xの解雇を回避するための努力(例えば、役員報酬減額、Xの配置転換など)もしていませんでした。
3 コメント
⑴ ①歩合給から1運行ごとの固定給に変更されたことにより残業代が約5倍に増えました
この下の表を見ていただきたいのですが、歩合給の時期の残業代は月が7~9万円程度ですが、月給(正確には、1運行あたりの金額を1か月分足したもの)の時期の残業代は40~55万円程度になっています。
トラックドライバー(運転手)の方に理解していただきたいのは、歩合給は残業代がとても少なくなり、働かせ放題になりやすいということです。
⑵ ②月120時間程度の長時間の残業(時間外労働)がありました
月120時間程度の残業時間がある場合には、脳心臓疾患だけでなく、精神疾患になったときも、基本的に、残業時間だけで、労災認定されるくらい、とても長い残業時間です。
⑶ ③労働時間を立証する証拠は3か月分しか使いませんでした
この事件では、会社が福岡営業所を閉鎖しなければならない状況にあったため、時間をかけて解決すると破産されてしまう恐れがありました。
それを回避するために、早期に解決できる労働審判を選択し、労働時間の立証も直近3か月に絞り、それ以外の月の労働時間は、直近3か月の平均値としました。
労働審判では、(御幣を恐れず言えば)「ざっくり」とした解決となるため、このような立証方法も基本的に許容されます。
⑷ ④整理解雇も争いました
整理解雇の有効性はあらゆる事情を考慮する必要があるため、主張・立証に長時間を要します。
早期解決を目指していたため、整理解雇の有効性について主張することを悩みましたが、かなり杜撰な整理解雇でしたので、主張することにしました。
その結果、請求した残業代を超える金額の支払いを受けることができました。