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【解雇】小泉進次郎氏が主張する解雇規制見直しや解雇の金銭解決制度は必要かについて私の意見を書きました。

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1 はじめに


  自民党の小泉進次郎氏が、総裁選の公約として、「大企業の解雇ルールを見直す」旨の考えを表明しました。これに対して、ヤフーニュースにおいて、労働者側で活動する佐々木亮弁護士小泉進次郎氏の「解雇規制の見直し」という自民党総裁選公約について(佐々木亮) – エキスパート – Yahoo!ニュース)、使用者側で活動する倉重公太郎辯護士総裁選で争点となる、解雇規制緩和の議論(倉重公太朗) – エキスパート – Yahoo!ニュース)がそれぞれ考えを示されていました。

 これらを踏まえて、解雇ルールについて説明しつつ、私の考えを示したいと思います。

 

2 進次郎氏が見直しの対象としている解雇ルールと見直しの目的


 進次郎氏が見直しの対象としている解雇ルールは大企業に関する整理解雇のルールのようです。

 解雇には、労働者側に問題(原因)があってなされるものと、経営不振など使用者側に問題(原因)があるものに分けられます。

今回、見直しの対象とされているのは、後者であり、一般的に整理解雇といわれるものです。労働者側に責任がないのに解雇がされる場面ですので、解雇は厳しく制限されています。

これまでの裁判例では、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③選定の合理性、④手続きの妥当性という4要素を充たさなければ整理解雇は有効とならないとされてきました。

このうち、進次郎氏は、主に②の解雇回避努力の程度を引き下げるべきという考えを示しました。具体的には、「希望退職者の募集や配置転換の努力をすることが義務付けられているが、これを大企業に限って撤廃し、代わりにリスキリングや再就職支援を課す」としたようです。

見直しの目的は「働く人は業績が悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛りつけられる今の制度から、新しい成長分野やより自分にあった職場で活躍することを応援する制度に変えます。」「労働市場の流動性、求められてる人が求められるところに行きやすい、そして必要な方が必要なところで活躍しやすい、そういう労働市場に(したい)」ということのようです。

 

3 進次郎氏の見直しの目的と解雇規制の見直しは関係がない


 私は、進次郎氏が考えている解雇回避努力を引き下げることと進次郎氏の見直しの目的は無関係であると思います。

 それは、整理解雇の場面は、企業側がイニシアティブをとって労働者と労働契約関係を切ろうとする場面ですが、進次郎氏が話している見直しの目的である労働市場の流動性を高めること、より具体的には、労働者がその労働者に適した職場にて働くことは、労働者の意思決定により決めることであって、企業側の意思決定によって決めることではないからです。

 ところで、現行法においても、期間の定めない労働契約を締結している労働者は退職の意思表示をしてから2週間が経過すれば退職することが来ます。小泉氏は「働く人は業績が悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛りつけられる今の制度」と話しているようですが、法律はそのようになっていません。

 もっとも、より良い転職先が見つかりにくいという意味で、退職しづらいということはあると思います。これを改善するために、新次郎氏が話す「リスキリングや再就職支援」はあった方がいいと思いますので、これは積極的に進めて欲しいと思います。

 

4 問題の核心は「企業にとって不都合な労働者の解雇をどのように認めるか」


 ⑴ 進次郎氏の本当の目的

 新次郎氏が取ろうとする解雇回避努力の引下げという手段と労働市場の流動化という目的を整合的に理解しようとすると、ここでの労働市場の流動化とは、「企業がイニシアティブをとって、企業にとって不都合な労働者を、より容易に解雇できるようにする」ということを意味すると思います。

 ⑵ 労働者の分類

 ところで、議論の前提として、労働者を無理やり3つに分けると、①ハイパフォーマンスな労働者、②(他者への悪影響はないが)ローパフォーマンスな労働者、③企業にとって悪影響がある労働者に分けられます(なお、①②③はスペクトラムというかグラデーションというか、要するに連続性があり、本来的には3つに分けられるものではありません。)。

 ①の労働者は企業も欲しい労働者なので整理解雇とは関係のない労働者です。

 ③の労働者は企業が最も解雇したい労働者だと思います。労働者側で労働事件を多く取り扱っている私の感覚としては、私から見ても問題があると言わざるを得ない労働者の場合には、(解雇は難しいと言われている現状においても)裁判所によって、普通解雇(労働者側に問題がある解雇)、懲戒解雇(罰としての解雇)によって解雇有効とされていると思います(倉重公太郎弁護士が、指摘する「会社と対立的な言動を繰り返すだけでなく、周りの社員に悪影響を与える」「能力は高いがジョブフィットせず、他責傾向が強く周りと軋轢を生む」という労働者は、程度の問題はあるかもしれませんが、本当に問題があれば解雇有効になっていると思います。)。その意味で、解雇回避努力の引下げの議論は③の労働者とも関係がないと思います。ただし、企業側から見れば、倉重公太郎弁護士が指摘するように「今からまた数年人員を張り付けて、前述の解雇対応(解雇裁判で絶対負けないようにするためには、十分に解雇に向けた手続を積み重ねた上で行う。具体的には、問題社員に対して複数名の担当者を張り付け、問題行動を把握し、厳重注意書に記載し、厳重注意や懲戒処分を重ね、再度問題行動を把握し、再度注意や処分を行い、退職勧奨を経て解雇する。)を全て行うのも極めて困難」という気持ちになることは理解できます。ただ、この点については、後述するとおり、意味不明な解雇が現実に存在する以上、そのような解雇でないかを審理する必要があるため、証拠収集や裁判所での審理に一定の時間を要することはやむを得ないと考えています。

 結局、私としては、②の労働者に対する整理解雇をどのように考えるかが問題の核心ではないかと考えています。

 

5 解雇回避努力の引下げは必要ない


  進次郎氏は、整理解雇の解雇回避努力として「希望退職者の募集や配置転換の努力をすることが義務付けられている」と指摘していますが、これは労働契約の内容によって変わると思います。

  例えば、勤務地限定・職種限定の労働契約を締結していれば、配置転換が自由にできる場合に比べて、希望退職者の募集や配置転換の努力を求められる程度は下がると思われます。

  また、裁判例の中では、高度の能力を求めて高額の賃金を支払う労働契約を締結した場合には、求められる能力を有していない場合には、解雇ができるという考え方を示すものも少なくありません。

  そして、有期契約を締結していれば、原則として、有期契約満了時に契約関係を解消できます。

  仮に、会社が解雇をしやすい環境を整えたいのであれば、労働契約の際に解雇がしやすい契約内容にしておけば良いのではないかと思います。優良大企業であれば、そのような契約内容であっても、労働者は来るはずですし、予め解雇されやすい(その裏返しとして配置転換されなかったり、給料が高かったりする)と認識している労働者としても不測の事態とはなりにくいからです。

  また、今働いている労働者との関係では、合理性(労働契約法10条)が認められる範囲で、賃金システムを変更し、パフォーマンスに応じた賃金とすればいいのではないかと思います。それでも問題があるということであれば、能力不足による普通解雇を検討することになると思います。

 

6 解雇の金銭解決制度も必要ない


 ところで、企業が一定のお金を支払うことで労働契約関係を終了させることが検討されたことがあります(解雇の金銭解決制度と一般的にいいます。解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会|厚生労働省 (mhlw.go.jp))。

 倉重公太郎弁護士が、金銭解決した方が良いケースとして、労働局のあっせん手続きで極めて低額な和解をした

・有給の権利を主張したら「パートにはない」として解雇(6万円で解決)

・「今日から請負でやってくれ、それが嫌なら辞めてくれ」として解雇(8万円で解決)

・4日働いただけで、「従業員と折り合いが悪い」と理由も告げずに解雇(10万円で解決)

・製造ライン、1回ミスしただけで解雇(10万円で解決)

を指摘されています。これは、このような低額和解をするくらいなら、金銭解決制度において予め定められた金額を得られた方がよいという指摘だと思います。

 確かに、上記和解は私としてもあり得ないと思いますが、これを回避するには、労働者にどのような権利が保障されていて、その実現のために裁判所での紛争解決ができること(また、裁判所での紛争解決の前段階として一定の解決水準を保っていると考えられる弁護士間の交渉があること)を周知していくべきだと思います。

 解雇の金銭解決制度を認めてしまえば、前述した意味不明な解雇であっても「金銭を支払えば認める」ということになってしまいますが、これは人としてどうかと思いますし、社会制度としても不健全だと思います。労働契約が生身の「人」の労働力を対象としているからこそ、労働者の気持ちを度外視して「お金を払えば契約解消」とするのには問題があると思います。

 また、解雇紛争は、個別性がとても強いため、●●のときは●月分の解決金のような基準を立てようにも、妥当な基準を立てるのは難しいと思います。

 なお、検討された金銭解決制度は、裁判所の関与を前提としており、企業がお金を払えば無効な解雇であっても契約関係が終了することにはなっていません。

 

7 まとめ


 企業側がローパフォーマンスな労働者を切りたいという気持ちになるのは理解できます。

 上述したとおり、解雇権濫用法理を前提としても、労働法上、解雇をしやすくする労働契約の内容とすることはできます。その説明を労働者にしっかりしたうえで労働契約を締結していれば、倉重公太郎弁護士が言及する「何が何でも定年までしがみつこうとしている」労働者は、ほぼいなくなるのではないかと思われます。労働者にしっかり説明された契約内容と合致しないパフォーマンスなのであれば、それは債務不履行なのですから、解雇権濫用法理のもとで、解雇が有効と判断されることになるでしょう。

 解決の方向性は、企業側が、より詳細な労働契約を提案し、労働者へしっかり説明することではないでしょうか。

 

8 【補足】整理解雇の4要素


 念のため整理解雇の4要素について説明しておきます。整理解雇の4要素とは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③選定の合理性、④手続きの妥当性を指します。

①~④をもう少し具体的に説明します。

①は、人員を削減しなければならないほどの状況なのかを検討する場面です。経営状況が全く悪くないのに整理解雇は認められません。もっとも、経営の合理化を図るという観点から、人員削減の必要性を認める裁判例もあります。この場合には、経営状況が悪い場合に比べて②解雇回避努力の程度が高度に求められます。

②は解雇を回避する努力を尽くしたかという観点です。配置転換の打診、役員や従業員の給与減額、希望退職者の募集、特別退職金の支払いなどです。人員削減の必要性が低いと解雇回避努力の程度は高いものが求められるのが一般的です。

③は解雇の対象として妥当な人を選んだのかという観点です。例えば、営業成績がいい人と悪い人がいたとして、基本的には、後者の人を対象とすべきというものです。使用者の好き嫌いによって被解雇者が選ばれることを防ぐ要件(要素)です。

④手続きの妥当性とは、労働者に対して、経営状況がどのくらい悪いのか説明したか、経営状況を改善するための協議をしたか、労働者の意向の確認し意向に沿った対応をしようとしたかなどが求められます。

 

幸せな生活を取り戻しましょう