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【労災・過労死・過労自死】労働者側の事情(素因・過失)により損害賠償額が減額される場合とは?

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1 はじめに


会社の安全配慮義務違反によって、労働者が心筋梗塞となって過労死したり、うつ病になって過労自死したりすることがあります。この場合に、例えば、労働者に心筋梗塞を生じさせやすい基礎疾患があったり、精神科への受診を拒否していたりして、過労死・過労自死という結果に、労働者側の事情(素因・過失)が関係しているのではないかと考えられる事案があります。

この場合、労働者(の遺族)が会社に対して損害賠償請求をしたときに労働者側の事情により損害賠償額が減額されることがあるのかが問題となります。

 

2 過失相殺


 まず、民法には、以下の規定があり、被害者側の過失を考慮して損害賠償責任の有無や損害賠償額が決められることになっています。

 

(過失相殺)

第四百十八条 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。

 

(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)

第七百二十二条 (略)

2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

 

 例えば、新潟地裁平成24年12月6日労働経済判例速報2166号15頁は、店舗の店長Aが、その心臓性突然死につき長時間労働の安全配慮義務違反がありましたが、深夜のワールドカップ中継を見ており、特に同年7月3日から休暇を取得していたのであるから、その間、疲労回復に努め、身心の休養を図ることは可能であったのに、深夜のサッカー中継視聴を継続していたこと、Aの心臓性突然死がその決勝戦をみるために深夜一人でいた際に発症していることなどからすると、同発症にはこれらの要因が影響していることは否定できず、損害について過失相殺をするのが相当とされ、30%の過失相殺がされています。

 

3 素因減額


 ところで、心筋梗塞を生じさせやすい基礎疾患などは、一般的には素因(医学用語としては病気にかかりやすい素質を指します)と呼ばれており、過失(一定の注意をしなければならなかったのにそれを怠ったこと)とは違います。

 もっとも、損害の発生・拡大に寄与する被害者の肉体的・精神的要因である素因についても、公平の観点から、過失相殺の規定である民法722条2項を類推適用して、損害の額を定める上で斟酌できるとするのが判例です(最一小判平成4年5月25日民集46巻4号400 頁)。

 ただし、「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を 有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはでき」ないとするのが判例の考え方です(最三小判平成8年10月29日民集50巻9号2474頁)。

 例えば、業務上の過重負荷と基礎疾患が共に原因となり従業員が死亡したNTT東日本事件・最一小判平成20年3月27日判例時報2003年155頁の事案では、労働者が、急性心筋虚血により死亡するに至ったところ、業務上の過重負荷と労働者が有していた基礎疾患とが共に原因となったものということができるとして、労働者の基礎疾患を考慮し、差戻控訴審では70%の素因減額が認められています。

 

4 どの程度の素因が考慮されるのか?


「真面目」「責任感がある」ということに起因して労働時間が長くなるなどして、過労死・過労自死が生じた場合、素因減額されるでしょうか?

この点について、電通事件・最二小判平成12年3月24日 民集54巻3号1155頁は、業務の負担が過重であることを原因として労働者の心身に生じた損害の発生又は拡大に右労働者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が寄与した場合において、右性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないときは、右損害につき使用者が賠償すべき額を決定するに当たり、右性格等を、民法七二二条二項の類推適用により右労働者の心因的要因としてしんしゃくすることはできないと判断しています。

この事案において、労働者Fは「明朗快活、素直で、責任感があり、また、物事に取り組むに当たっては、粘り強く、いわゆる完ぺき主義の傾向もあった。」のですが、「Fの性格は、一般の社会人の中にしばしば見られる ものの一つであって、Fの上司であるLらは、Fの従事する業務との関係で、その 性格を積極的に評価していたというのである。そうすると、Fの性格は、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めることはできないから、一審被告の賠償すべき額を決定するに当たり、F の前記のような性格及びこれに基づく業務遂行の態様等をしんしゃくすることはできないというべきである。」と判断されています。

 

5 まとめ


 過失相殺や素因減額が問題となることもありますが、本当に斟酌されるべきものは限定的です。本当に斟酌されるものなのかをしっかり検討すべきです。

幸せな生活を取り戻しましょう