【退職代行】に対する当職の考え方について
1 はじめに
退職代行の社会的認知度が高まり、ある調査では、企業の1割余りが代行サービスを通じて社員が辞めたという結果が出ています(「退職代行」で社員退職 県内企業の1割余 信用調査会社調査|NHK 群馬県のニュース)。
私も退職代行の依頼を多く受けていますが、退職代行の利用方法を誤ると労働者と会社双方にとって不必要な問題が生じる場合があると感じています。以下では、退職代行を利用するにあたって気を付けていただきたいことを記載します。
2 退職代行を利用した方がいい場合とは?
結論から申し上げますと、①(使用者側に問題があろうとなかろうと)労働者が精神疾患に罹患したり、また、その可能性があると感じていらっしゃる場合、②使用者側が法律に反して辞めさせてくれない場合、③会社の労働環境が悪かったり、会社の要求が不当である場合などでは、退職代行を是非利用された方がいいと思います。
他方で、「いろいろと面倒だから」という抽象的な理由による場合には、退職代行の利用はお勧めしません。
なぜなら、継続的な人間関係があった中で、その会社を辞めるのであれば、その理由を説明したり、引継ぎをしたりするのが、基本的に必要だと考えるからです。しかし、上述した①②③やこれに類する場合には、労働者の生命、精神状態、経済状況などを守る必要性があるからです。
3 退職代行の利用を躊躇しないで欲しいです
私の経験では、1年間に数日しか休みがなく、1日12時間を超える労働をさせられており、辞めようにも、「辞めるなら損害賠償をするぞ」と脅されて辞められないという方がいらっしゃいました。また、別の事案では、ある店舗の売上げをほぼ一人で持っており、「自分が辞めてしまうとその店舗が潰れてしまうから辞めらない」という責任感から会社を辞められずにいるという方がいらっしゃいました。
いずれの方も、法律相談のときから、明らかにうつ病の症状が見受けられ、このまま働き続けると生命に関わる可能性があると感じました。
絶対にお伝えしたいのは、命より大切な仕事はない、ということです。
真面目な方こそ、その責任感から、仕事を辞められないと考えてしまいがちですが、うつ病の症状が出るような事態だとすると、労働環境に何らかの問題があることがほとんどです。その環境と離れて、一度、ゆっくりすれば、また、喜びを感じることができる時間が戻ってきます。
ですから、退職代行の利用を躊躇しないで欲しいです。働き続けてしまって心が壊れてしまうと、それを治すのには、長い時間がかかります。取り返しのつかない状態になる前に退職代行の利用をご検討いただければと思います。
4 弁護士が対応しない退職代行業者の利用には否定的です
弁護士が対応しない退職代行業者の利用には否定的です。
確かに、弁護士が対応するものに比べると安価であり、その意味で、利用価値がある部分も否定できません。
しかし、安価である分、サポートは少ないです。退職代行業者に依頼したけれども、会社側からの連絡が止まないとか、損害賠償請求をされそうであるなどの相談が私のところに多く来ています。このような問題には対応してくれないことが一般的です(このような対応は弁護士でなければ基本的にできません。)。
そのような、二次的対応を求められる相談をお聞きしたときに、例えば、「●●をしておけば、失業手当をもっとたくさん受給できたのに」とか「もう少し、丁寧に使用者に説明していれば、損害賠償請求までされることはなかったのではないか」と思うことが少なくありません。
また、残業代を請求したり、労災申請の検討をすることもあります。退職代行のご相談から始まって、法的な検討をしたときに、数百万円の利益が依頼者に生じたというケースもありました。
費用対効果の関係でいろいろと難しい場合があるかと思いますが、先に述べました退職代行が必要と考えられる方については、弁護士による適切な法的サポートを受けられた方が、長い目で見たときには、費用対効果が高いと言えるのではないかなと感じています(なお、当職の退職代行の料金は10万円(税別)です。)。
5 使用者に対してできる限りの説明をしたいと思います
使用者(会社・雇い主)も人ですから、突然辞められると嫌な気持ちがすると思います(それは使用者に責任があって労働者が辞める場合であっても、そうでない場合であってもです。)。
その嫌な気持ちをそのままにしておくと、労働者に対する損害賠償請求や嫌がらせに繋がっていく可能性があります。
そのため、私は、基本的に、退職後の引継ぎなどについては、できる限り対応する方向で依頼者にお話しすることが多いです(もちろん、使用者の連絡は弁護士で対応しますし、引継ぎも社会通念上必要かつ相当な範囲に限っています。明らかに使用者側に問題があるときは対応しません。)。また、退職の理由や、それが法的にどのように評価されるべきことなのかについても通知書の中に記載したり、直接、使用者と電話でお話しする中でお伝えするようにしています。
このようなことには手間がかかりますが、誤解があるまま進んでいく方が労使双方にとって負担ですので、その負担がなくなればいいなと思って対応しています。
6 働き続けて命を失うことだけはやめてください
とにかく、一番お伝えしたいことは、働き続けて、精神が病み、お亡くなりになるということだけは絶対に避けて欲しい、ということです。精神的に病んでしまうと、弁護士に相談するという選択肢に目が向かなくなってしまいますが、もしこの記事をお読みいただくことができているのであれば、(依頼の有無にかかわらず)一度、遠慮なくご相談いただきたいと思います。