【残業代】歩合制(出来高払制その他の請負制)は低い残業代・働かせ放題になりやすく注意が必要です。
1 はじめに
歩合制(この記事では、労働基準法施行規則19条1項6号の「出来高払制その他の請負制」のことを指して「歩合制」と呼びます。)の場合は、残業代の計算方法が特殊であり、低い残業代・働かせ放題になりやすく注意が必要です。
ただ、給与明細上、歩合制であったとしても、業務内容などからして、実際には非歩合制であり、本来支払われるべき残業代が支払われていない可能性もあります。
このことについて解説します。
2 残業代の計算式
残業代は、賃金単価×割増率×時間外労働等の労働時間によって算出されます。
3 歩合制の場合にどのくらい残業代は少ないのか
例えば、月額給与25万円の労働者が、ひと月に1日12時間、月に22日、合計264時間働いたとします。このときのひと月の残業代は以下のとおりです。歩合制の場合極めて残業代が少なくなります。全く同じ労働時間であっても、歩合制と非歩合制では発生する残業代の額に大きな違いが出てきます。
※以上の表の非歩合制の金額は月給制を前提に、月所定労働時間170時間として試算しています。※最低賃金法は未考慮です。
4 歩合制の場合に残業代が少なくなる理由
歩合制の場合に残業代が少なくなる理由は2つあります。
⑴ 得た賃金を所定労働時間ではなく残業時間を含めた「総労働時間数」で割って賃金単価を出すため賃金単価が低くなる
歩合制の場合は、例えば、1ヵ月ごとに賃金が支払わる場合、その賃金算定期間である1ヵ月において支払われた賃金の総額をその賃金算定期間における「総労働時間数」で割ることで賃金単価が算出されます。そのため、長時間労働になればなるほど、賃金単価が下がっていきます。
他方で、非歩合制(月給制、日給制、時給制等)については、契約で決めた所定労働時間(月給制なら173.8時間が上限、日給制なら8時間、時給制なら1時間)で、所定労働時間に得た賃金を割ることで賃金単価が算出されます(労働基準法施行規則19条1項1~5号)。
歩合制と非歩合制の違いは、所定労働時間を超えた残業時間も含めてたうえで、得た賃金を割るか否かという点です。歩合制の場合、所定労働時間を超えた残業時間も含めて賃金を割るので、単価が下がります。
⑵ 割増率が1.25倍でなく0.25倍であるため賃金単価が低くなる
歩合制では、前述のとおり、賃金総額を「所定」ではなく「総」労働時間数で割って賃金単価を決するため、1.25倍のうちの1.0倍に該当する部分は、既に基礎となった賃金総額のなかに含められていると考えることになります。1.25倍が0.25倍になるわけですから、それだけでも残業代は5分の1になります。
5 歩合制とされていても歩合制でないとされる場合
ところで、歩合給とは「労働者の賃金が労働給付の成果に一定比率を乗じてその額が定まる賃金」をいうとされています。
サカイ引越センター事件・東京高判令和6年5月15日判例集未搭載では、会社側が、売上額に応じて賃金を支払っているから歩合給だと主張しましたが、裁判所は、引越運送業の仕事では、引越荷物の積卸作業、引越荷物の運搬が仕事であり、作業量や運搬距離が労働給付の成果であること、売上額が作業量と緩やかに相関するがそのようなレベルでは歩合給とはいえない旨を判断しています。
この判断を前提とすると、作業量や運搬距離に比例しない売上額に応じて賃金を支払うということでは、歩合制が適用されない可能性が高いのではないかと思われます。
やや、裁判例よりも労働者寄りの考え方かもしれませんが、労働者の頑張りの有無程度によって、それに応じて賃金額が変わる制度(タクシー運転手の賃金はこのような制度が多いと思います)でないと歩合給とは言い難いのではないか、そうすると、トラック運転手において適法な歩合給は少ないのではないかと考えています。
6 まとめ
歩合制がとられてるのかを一度確認してもらい、それが本当に適法な歩合制なのかを検討してもらいたいです。一度、ご相談いただければと思います。