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【残業代】固定残業代を除くと最低賃金を下回る場合には固定残業代による残業代の支払いは無効の可能性が高いです。

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1 はじめに


 基本給は低いけれども、固定残業代を高くすることで、賃金総額としてはある程度の賃金としつつ、長時間労働をしても追加の残業代が支払われないような賃金体系にしているものが散見されます。

 結論から述べると、賃金総額除くと最低賃金を下回る場合には固定残業代による残業代の支払いは無効の可能性が高いです。

 この点に言及した裁判例がありましたのでご紹介します。

 

2 東京地判令和5年3月29日判例秘書L07831203


 この裁判例では「原告が入社した平成28年3月時点での月例賃金は基本給12万円及び『残業手当』12万円合計24万円であり、当時の埼玉県の最低賃金は845円であった。仮に「残業手当」名目で支払われていた賃金が固定残業代であり、原告の基本給のみが基礎賃金であるとすると、時間単価は744円であり、当時の埼玉県の最低賃金を100円以上下回ることになる。被告会社は、従業員が約70名も在籍する運送会社であり、そのような会社が最低賃金を100円以上も下回る違法な労働条件で契約を締結するとは考え難いし、労働者も最低賃金を100円以上も下回る労働条件を受け入れるとは考え難い。また、原告と被告会社との間で労働契約を締結するに当たって、雇用契約書や労働条件通知書は作成されておらず、被告会社が原告に対して上記「残業手当」名目の賃金についてどのような説明をしたのかも明らかではない。このような点に照らすと、上記「残業手当」名目の賃金には通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれていると解さざるを得ず、その部分については時間外労働等に対する対価性を欠くというべきである。その結果、上記「残業手当」名目の賃金の通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分とを判別することはできないから、上記『残業手当』12万円は固定残業代の定めとして有効とは認められない。」と判断しています。

 このように、最低賃金を下回るかどうかというのは、固定残業代による残業代支払いが有効かどうかに強い影響を与えるといえます。

 

3 その他のこの裁判例の注目すべき点


 この判決では「原告が10トントラックを運転するようになった頃、月例賃金のうちの基本給は16万円となり、『残業手当』名目の賃金は17万円、22万円、24万円、26万円と順次増額されている。仮に上記『残業手当』名目の賃金が固定残業代の定めとして有効であれば、基礎賃金は基本給の16万円のみとなり、基礎賃金が月額24万円(前記(1))から不利益に変更されることとなるから、労働条件の不利益変更に対する労働者の同意があったか否かという点も問題となる。」と判示されています。

 その問題についてこの裁判例は「原告が10トントラックの長距離運行を担当していた時期に、原告の業務の内容に変更がないにもかかわらず、『残業手当』名目の賃金を22万円、24万円、26万円と順次増額変更した理由として、原告の働きぶり、頑張りに対する評価の要素が含まれており(同証人の尋問調書15、16頁)、このような点に照らすと、上記「残業手当」名目の賃金には通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれていると解さざるを得ず、その部分については時間外労働等に対する対価性を欠くというべきである。」と判示しています。

 残業手当が増額した点について「原告の働きぶり、頑張りに対する評価の要素」が含まれていることを指摘したうえで、残業手当が通常の労働時間の賃金の性質を含んでるがゆえに、時間外労働等に対する対価した、つまり、残業代の支払いとはいえないとした点は注目されます。

 

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