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【残業代】会社が解散した場合、会社の代表者などの役員に対して残業代相当額の損害賠償請求が認められる場合があります。

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1 はじめに


 長時間労働があったため、残業代を請求する場合、請求の相手は、労働契約の相手方である使用者(会社、雇い主)です。会社の代表者等の役員である自然人は、労働者と労働契約を締結している主体ではないため、残業代の支払い義務を負わないのが原則です。

 しかし、残業代が支払われないまま会社が解散してしまった場合、会社の代表者等の役員から残業代の支払いが受けられないかと考えたくなります。

 この支払いを一部認めた裁判例として「そらふね元代表取締役事件・労働判例名古屋高金沢支判令和5年2月22日労働判例1294号39頁があります。本日は、この裁判例について解説します。

 

2 事案


 この事案で、会社の代表取締役Yは、実際には、管理監督者(労働基準法41条2号)に該当しない労働者Xを管理監督者として扱いました。

 労基法上、管理監督者に該当すれば、時間外割増賃金と休日の割増賃金を支払う必要がなくなります(なお、管理監督者であっても、深夜の割増賃金は支払わないといけません。)。

 会社は、Xから給料を上げてほしいという要望を受けたのですが、給料を上げると損失が大きくなり会社として立ち行かなくなるとして、会社の顧問の社会保険労務士に相談しました。社会保険労務士は、管理監督者にすれば残業代を支払う必要はないが給料も上げなければならないと助言しました。その際、会社の代表取締役Yは、社会保険労務士から労働基準法上の管理監督者とはどのようなものであるのかについては聞いておらず、社会保険労務士に対して労働者の業務内容を説明ませんでした。その後、労働者を管理監督者として扱い、残業代を支払いませんでした。

 会社は人員不足などにより事業継続が困難になったとして、会社を解散しました。

 

3 裁判所の判断


 会社法429条1項には①役員等が、②その職務を行うについて、③悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、④これによって⑤第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」という条文があります。

 会社の代表取締役は①「役員等」にあたります。

 労働者を管理監督者として扱うことは代表取締役の「職務を行うについて」なされたことでした。

 また、③悪意又は重大な過失があったときについて、「Yは、Xから給料を上げることを要望され、社会保険労務士と相談してXを管理監督者にすれば残業代を支払わなくてもよい と言われたことから、管理監督者とはどのような立場のものか、Xの業務が本件会社の管理監督者にふさわしいかについて社会保険労務士に相談することなく、残業代の支払義務を免れるために管理監督者という制度を利用したにすぎ」ず、「Xを管理監督者として扱ったことについては、重大な過失がある」としました。なお、「管理監督者該当性の判断基準への当てはめは容易に判断することはできず、当てはめを誤ったことが直ちに重過失とされるものではない」が、Yは、「Xの業務を自分なりに管理監督者の判断基準に当てはめ た上でXを管理監督者にしたものではなく、残業代を支払わない方法として管理監督者という制度 を利用したものであるから、本件を、管理監督者該当性の判断基準への当てはめを誤った事案と評価することはできない」とも判示しています。

 ④「これによって」すなわち、③によって⑤の損害が発生したのかという因果関係については、一審判決は、Xに対する残業代等未払いは、「本件会社の事業継続が困難な状況となったことが原因であって、Yの任務懈怠が原因といい難い」として、因果関係を否定していましたが、控訴審は、「Xが超過勤務をしたことによる残業代は月々発生するものであるから、Xが残業代の支払を受けられなかったことによる損害も月々発生するものであ」り、 「本件会社において、さほど多額とはいえないXの各月の残業代を支払うことすらできなかった経営状態であったことを認めるに足りる証拠はないことからすれば、Yの任務懈怠とXの損害との因果関係がある」としました。

 ⑤約200万円を認めました。

 

4 まとめ


 会社解散によって会社が消滅してしまうと、残業代の請求を諦めないといけないのではないかと考えがちですが、役員等に対する請求の可能性が残っています。簡単ではない部分はありますが、しっかり検討したいものです。

幸せな生活を取り戻しましょう