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【残業代、トラックドライバー】長く働いてもそれに応じて残業代が増えていかないルールは労基法上OKなのか?

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1 はじめに


 トラックドライバーの残業代で問題になっていることが多いと思いますが、使用者(会社)側が、ダラダラ働く労働者に残業代を払うよりは、テキパキ働いて短時間に業務を終わらせる労働者に報いたいということで、長く働いてもそれに応じて残業代が増えていかないルール(以下「本件ルール」といいます。)を設定する場合があります。

 この使用者の考え方は尊重に値するのですが、一方で、テキパキかつ長時間働いた労働者の残業代が増えず、また、時間外労働が抑制されず、労働者の健康が害されるおそれもあります。

 そこで本件ルールが労基法上許容されるのか、許容される限界点はどこになっているのかについて、本件ルールを否定した①国際自動車(第二次上告審)事件・最一小令2年3月30日民集74巻3号549頁と本件ルールを肯定したJP ロジスティクス(旧トールエクスプレスジャパン)事件・大阪高判令和5年7月20日労働判例1313号65頁を比較しながら説明したいと思います。

 

2 結論


 (後述3以下をお読みいただかないままですと、結論の意味が全く理解いただけないと思いますが)上記①②の判決からすると、割増賃金は払われるのに、その前提となる通常の労働時間の賃金(下記の事例では歩合給)が支払われないということが生じる場合は、本件ルールに違反していると言えます(ただし、それ以外にも本件ルールに違反していると考えられる余地があると思われます。)。

 

 

3 国際自動車(第二次上告審)事件


 この事案はとても複雑なので短文で正確に説明できませんが、この事案のポイントをコンパクトに説明すると、この会社では、日給制賃金+歩合給という賃金体系がとられ、

 

①歩合給=対象額A-(割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費)

 

とされていたという事案でした(なお、対象額Aは揚高を考慮する賃金でした。)。

要するに、割増金(割増賃金)が増える分だけ、対象額Aから控除され、ほとんど常に、割増賃金が歩合給に吸収されてしまうという事案でした。

 

また、上記①の式に出てくる「(割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)」部分の計算は以下の式のとおりでした。

 

②(対象額A÷総労働時間)×(深夜、残業時間、休日の各割増率)×各労働時間

 

 ①をみると、歩合給を計算する前提として割増金を計算する必要がありますが、②をみると、上述のとおり、対象額Aは揚高を考慮する賃金ですから、結局②も対象額Aと同様、揚高によって変動する賃金といえます。その意味で、割増金は歩合給の一部を含んでいるとも評価できます。

 

以上の事案において、最高裁は以下のとおり判断しました。

(ア)歩合給(出来高払制)の意義を確認

「歩合給」「部分は,出来高払制の賃金,すなわち,揚高に一定の比率を乗ずることなどにより,揚高から一定の経費や使用者の留保分に相当する額を差し引いたものを労働者に分配する賃金であると解される」

(イ)本件ルール違反の理由付け1

「割増金が時間外労働等に対する対価として支払われるものであるとすれば,割増金の額がそのまま歩合給(1)の減額につながるという上記の仕組みは,当該揚高を得るに当たり生ずる割増賃金をその経費とみた上で,その全額をタクシー乗務員に負担させているに等しいものであって,前記(1)アで説示した労働基準法37条の趣旨に沿うものとはいい難い。

(ウ)本件ルール違反の理由付け2

割増金の額が大きくなり歩合給(1)が0円となる場合には,出来高払制の賃金部分について,割増金のみが支払われることとなるところ,この場合における割増金を時間外労働等に対する対価とみるとすれば,出来高払制の賃金部分につき通常の労働時間の賃金に当たる部分はなく,全てが割増賃金であることとなるが,これは,法定の労働時間を超えた労働に対する割増分として支払われるという労働基準法37条の定める割増賃金の本質から逸脱したものといわざるを得ない。

(エ)結論

「イ 結局,本件賃金規則の定める上記の仕組みは,その実質において,出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を,時間外労働等がある場合には,その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである(このことは,歩合給対応部分の割増金のほか,同じく対象額Aから控除される基本給対応部分の割増金についても同様である。)。そうすると,本件賃金規則における割増金は,その一部に時間外労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても,通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして,割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。」と判示しました。

 

4 JP ロジスティクス(旧トールエクスプレスジャパン)事件


 この事案はとても複雑なので短文で正確に説明はしきれませんが、この事案のポイントをコンパクトに説明すると、この会社では、

 

①賃金=基準内賃金+基準外賃金 

※基準内とは残業代を計算する際の基礎となる賃金のことであり、基準外とはそれに該当しないという趣旨です。

 

②基準内賃金=(いろいろな賃金項目がありますが、ここに「能率手当」というややこしい賃金項目が含まれていました)

 

③時間外手当=時間外手当A(能率手当を除く基準内賃金を計算基礎とする)+時間外手当B(能率手当を計算基礎とする)

 

④能率手当=賃金対象額(これは配達枚数など主に成果を考慮して決められるもの)-時間外手当A

 

という賃金体系でした。

 

④からすると、残業が増えれば増えるほど能率手当額が減るため、国際自動車(第二次上告審)事件の(イ)本件ルール違反の理由付け1が妥当しそうです。

 

もっとも、JP ロジスティクス(旧トールエクスプレスジャパン)事件判決は、国際自動車(第二次上告審)事件の(ウ)本件ルール違反の理由付け2は妥当しないと指摘しました。すなわち、④に着目して、時間外手当Aが一定の額に達し、時間外手当Aの額が賃金退職額を上回った場合、時間外手当Aは支払われる一方で、通常の賃金(割増賃金の算定の基礎となる賃金)④の能率手当(=②の能率手当)は生じないため、(ウ)本件ルール違反の理由付け2が妥当しそうですが、能率手当に関する部分については、能率手当がなければ、能率手当の割増賃金に該当する時間外手当Bが発生することにならないため、(ウ)本件ルール違反の理由付け2が妥当しない旨判断しました。

 

また、国際自動車(第二次上告審)事件では、歩合給の金額を導くために対象額Aから差し引かれる割増金に歩合給対応部分が含まれているため、歩合給に係る基礎賃金や同礎賃金を基礎として算定した時間外手当の額が不明確になってしまうから判別性を欠くが、本件の能率手当は、 賃金対象額は、出来高を示す揚高の一定割合というような形で計算されるものではないから、「出来高払制によって定められた賃金」とは異なる「その他の請負制によって定められた賃金」に該当するため、そのような不明確性は生じず、それゆえ、(イ)本件ルール違反の理由付け1も妥当しない旨判示しました。

 

 しかし、割増金の額がそのまま歩合給の減額につながるという仕組みであることは否定できないと思いますので、大阪高裁の判断は、(イ)本件ルール違反の理由付け1が妥当しないことの説明としては足りないと思います。

 

4 コメント


 長く働いてもそれに応じて残業代が増えていかないルールは労基法上OKなのかを見分けるのは至難の業であり、通常の労働者ができるものとは到底思えません。長く働いてもそれに応じて残業代が増えていかないルールのようであれば、弁護士にご相談いただいた方が良いと思います。

 

幸せな生活を取り戻しましょう