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解決事例

【担当事件】解雇無効判決確定後、自宅待機命令が継続され1年経過時点から不法行為となり55万円の慰謝料が認められた件

解決事例

1 この事件のポイント


本日、福岡高裁第5民事部(岡田健裁判長)において、解雇無効判決確定後、自宅待機命令が継続され1年経過時点から自宅待機命令の業務上の必要性を欠くため不法行為となり55万円(慰謝料50万円+弁護士費用5万円)の損害賠償請求が認められた判決を得ましたのでご報告いたします。

 

2 事案の概要


事案は、保険代理店において、総務系内務職として勤務した労働者が、整理解雇され、これを争い解雇無効の判決が出されたところ、会社は、未払賃金を支払ったものの、復職の検討中であるとして自宅待機命令を継続し続け復職させなかったという事案です。自宅待機命令は、パワハラの一類型である過少業務の最たるものであり人格権を侵害するとして不法行為に当たると主張しました。

時系列は以下のとおりです。

R2.3.20  整理解雇

R4.6.8    整理解雇無効判決確定。判決に基づき未払い賃金支払い。しかし、これ以降分は、原告の仕事を準備できないやむを得ない事由があるとのことで休業手当のみ支払い。

R4.6       被告会社は、原告に対し、7月中に担当業務を伝える予定である旨伝達。

R4.7.1    自宅待機命令。以降、毎月継続。

R4.7       被告会社は、原告が復職に向けた検討状況等について問い合わせた際には、具体的な回答を行わなかった。

R4.9       同上。

R4.11.24 提訴。

R5.4.3 被告会社は、新規に従業員1名を採用。

R5.5.22 一審口頭弁論終結時。

R5.6.28 一審判決。一審は、口頭弁論終結時では、まだ不法行為には至らないと判断した。一審判決後から会社は休業手当に限らず賃金満額を支払うようになっていた。

R5.6.30  本件自宅待機命令は1年に及ぶ。ここから不法行為。

R6.4.24  控訴審口頭弁論終結時。

 

3 判決の要旨


 原審は、「一般に、労働契約上、労働者に就労請求権は認められておらず、原告と被告との労働契約においてもこれと異なる合意は認められないから原告に自宅待機を命ずる本件自宅待機命令が直ちに違法になるものではない。もっとも、自宅待機命令が業務上の必要性なく発せられた場合や、不当な動機・目的をもって発せられたような場合には、使用者の裁量を逸脱濫用するものとして違法と評価されるものと解され、使用者の裁量を逸脱濫用するものかどうかは、業務命令としての必要性、動機・目的、労働者に与える影響の程度等を総合的に考慮して判断されるべきである。」としました。ただ、一審の口頭弁論終結時では「現時点においては、本件自宅待機命令が使用者の裁量を逸脱濫用する違法なもので原告の人格権を侵害するものとまでは認められない」としました。

 控訴審は、上記判断枠組みを前提に「被控訴人は、もともと令和4年7月中には控訴人に復職後の担当業務を伝える予定であったものであり、にもかかわらず令和5年6月30日時点で本件自宅待機命令は1年にも及んでいるもので、上記(1)オの事情(★この事情は後記のとおりです。)があることを考慮しても、被控訴人としては、同日までには検討を済ませ、控訴人を復職させていて然るべきであったといわざるを得ない。したがって、本件自宅待機命令は、令和5年7月1日をもって、業務上の必要性を欠く違法なものとなっており、控訴人の雇用契約上の地位を脅かし、その人格権を侵害するものとして不法行為を構成するに至っているといわざるを得ない。」としました。

 上記(1)オの事情は「控訴人が従前担当していた総務系内務職は、控訴人が雇用される以前は存在せず、本件解雇に伴って消滅した職種であった。総務系内務職以外の内務職としては、保険内務職(保険の見積もり等、主に計算をする仕事)、フロント職(事務所において電話対応又は来客対応により営業をする仕事)があるが、いずれも保険に関する専門的な知識が必要とざれ、3か月間の初期研修が必要とされるところ(甲39、乙43) 、被控訴人は現在のところ研修を実施するための人的態勢が整っていない。」という事情です。

 

4 コメント


 本件は、使用者が「復職を検討中だが、事業整理・改善した結果、原告に適した仕事がなくなった。その仕事を準備することができず復職させることができない」旨主張しており、復職させないことの不当な動機・目的が直ちにはっきりしない事案でした。

 その中で、不当な動機・目的や労働者の不利益という観点でなく「業務上の必要性を欠く」という観点で違法と判断した点は汎用性があるように思いました。

 なお、私は、担当業務を伝えると言っていたR4.7の経過時点や、他の労働者が新規に採用されたR5.4.3時点以降には自宅待機命令の業務上の必要性を欠くと主張していたのですが、それは採ってもらえませんでした。

 本判決については、不法行為の成立時期や、損害賠償額について不満を残す点はあるものの、一般的に就労請求権が否定されている中で、復職を拒否する使用者に対して、広く損害賠償義務を負わせる可能性を示し、復職を促すものであると思われます。その点に意義があると思いましたのでご報告いたします。

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