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【担当事件】福岡県筑後市で働くトラックドライバー(運転手) 労働審判で残業代等約600万円が支われた事案

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1 この事件のポイント


 この事案のポイントは3つです。給与額全体を決めた後に、その全体額を最低賃金を前提にして「基本給、時間外手当、深夜手当」などと割り付けることによってでは割増賃金が適法に支払われたとはいえないこと、②始業時の早出残業、終業時の残業、積み降ろし時の手待時間について、従業員5名から供述をとり、労働時間であると立証したこと、③調停において、会社に対し、「従業員に対し、給与の計算(売上額(各運行に係る売上額の詳細を含む)及びそれに乗じる割合並びに各種手当の計算を含む)を明らかにすることを約束」させたことです。

 なお、この事案は令和5年12月に解決した事案です。

 

2 事案の概要


本件は、福岡県筑後市に営業所がある運送会社Yで働いていたトラックドライバーXが、過去2年10か月分の残業代等を請求したものです。

事案で特徴的だったのは、①労働者に対して、給与の計算方法が知らされていなかったこと、②労働時間の管理において、(ア)運行初日は、午後以降に出発する場合申立人は出発前1時間から2時間程度前に出社することが通常であったこと、(イ)運行最終日は、到着後遅くとも1時間程度で退社していたこと、(ウ)積み降ろしの手待時間においてその場を離れられない状況にあったことの各事情がありました。

①について、当職が代理人となり、具体的な給与の計算方法を聞いたところ、給与は次のとおり計算していると会社から説明がありました。

ア 第一段階(総支給額の決定)

 ㋐対象月の売上額に一定の割合を乗じた金額、㋑運行日数と1日あたりの一定金額を乗じた金額、㋒運転手の勤務年数及び対象月に運転した車両等によって決せられる金額をそれぞれ算出し、その合計額が、当該運転手の対象月の総支給額となる。

  イ 第二段階(総支給額の各支給項目への振り分け)

 最低賃金を前提に、基本給、時間外手当、深夜手当を計算し、それと通勤手当、無事故手当の合計額を算出する(本給額)。

 上記総支給額から、上記本給額を差し引き、残りを歩合手当、歩合残業、歩合深夜に案分する。(以下、このように各科目に割り付ける方法を「割り付け方式」といいます。)

 

3 コメント


 ⑴ ①割り付け方式では適法な残業代の支払いとならないこと

割り付け方式の賃金について、判例を引用しながら次のように主張しました。

「雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの諸般の事情を考慮して判断すべきである。そして、その判断に際しては、労働基準法37条が時間外労働等を抑制するとともに労働者への補償を実現しようとする趣旨による規定であることを踏まえた上で、当該手当の名称や算定方法だけでなく、当該雇用契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならならない(日本ケミカル事件・最一小判平成30年7月19日労判1186号5頁、国際自動車事件・最一小判令和2年3月30日労判1220号5頁、熊本総合運輸事件・最二小判令和5年3月10日労判1284号5頁等参照)。

 上記の計算方法は、本来は上記㋐ないし㋒といった通常の労働時間に対する賃金に該当するものを(時間外労働等の有無、多寡とは無関係に算出される金額である)、時間外労働等がなされた場合には、時間外手当、深夜手当、歩合残業、歩合深夜といった項目に置き換えて支払うこととするものにほかならない。そうすると、時間外手当、深夜手当、歩合残業、歩合深夜の項目には、通常の労働時間に対する賃金として支払われるべきものが相当程度含まれているものと理解せざるをえない。そして、この項目のうち具体的にどの部分が時間外労働等に対する対価にあたるかは明らかではない。したがって、時間外手当、深夜手当、歩合残業、歩合深夜の項目での支払いにより時間外割増賃金等の支払いがなされたとはいえない(国際自動車事件・最一小判令和2年3月30日労判1220号5頁、熊本総合運輸事件・最二小判令和5年3月10日労判1284号5頁等参照)。」

 この主張が裁判所に受け入れられた結果、割り付け方式によって残業代を支払ったとはいえず、当初決められる給与総額を基礎として割増賃金を計算されることになりました。

 

 ⑵ ②他の労働者の協力により労働時間の立証ができたこと

 本件では、②労働時間の管理において、(ア)運行初日は、午後以降に出発する場合申立人は出発前1時間から2時間程度前に出社することが通常であったこと、(イ)運行最終日は、到着後遅くとも1時間程度で退社していたこと、(ウ)積み降ろしの手待時間においてその場を離れられない状況にあったことの各事情がありました。

 会社は、(ア)(イ)については、働いた証拠がないこと、(ウ)については、その場から離れられないという状況にはなかったことを主張して争っていました。

 しかし、依頼者に、同じ職場で働く労働者5名に(ア)(イ)(ウ)をインタビューし、それを録音させてもらうかたちで、労働者5名も(ア)(イ)(ウ)の認識を持っていることを証拠化し、労働審判に出すことができました。

 

 ⑶ 会社に給与計算方法を従業員に明らかにするよう約束させたこと

労働審判や裁判は、それを申し立てた労働者と申し立てられた会社の権利関係を決めるものであり、他の労働者と会社の関係を拘束しません。

 しかし、本件では、会社が従業員全員に対して給与計算方法を明らかにしていないという極めて大きな問題がありました。

 依頼者は、他の労働者の労働条件も解決できなければ、調停(合意)しないという立場を取られ、③調停において、会社に対し、「従業員に対し、給与の計算(売上額(各運行に係る売上額の詳細を含む)及びそれに乗じる割合並びに各種手当の計算を含む)を明らかにすることを約束」するよう求めました。

 会社もこれを受け入れたため、他の労働者の労働条件の改善にも寄与することができました。

幸せな生活を取り戻しましょう