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残業代請求

【担当事件】福岡県古賀市で働くトラックドライバー(運転手) 裁判で残業代400万円が支われた事案

残業代請求

1 この事件のポイント


 この事案のポイントは2つです。トラックドライバーの方が労働者であるといえるか(労働者であるといえないと残業代請求はできません。)、支払われていた金員が歩合制であるか(歩合制であれば割増賃金はとても少なくなります。)の2つです。

 なお、この事案は令和5年3月頃に解決した事案です。

 

2 事案の概要


本件は、福岡県古賀市に営業所がある運送会社Yで働いていたトラックドライバーXが、過去2年4か月分の残業代等を請求したものです。

事案で特徴的だったのは、①賃金の支払い方が固定額でなく完全歩合制であり、そのうえ、経費(ガソリン代、高速道路利用代、整備費、任意保険料、運送保険料)はドライバーが負担させられていたという事案でした。そのため、月によっては、収入額が10万円を割るということもありました。②また、運送の指示がほとんどなく、行先と到着時間の指示のみがされるという点でした。

 

3 コメント


 ⑴ 労働者性が認められるかの判断基準

 労働者に該当するかどうかの判断は難しいのですが、

001180980.pdf (mhlw.go.jp)

この厚生労働省のウェブページに2023年12月現在において、「労働基準法上の労働者に該当すると判断された事例(貨物軽自動車運送事業の自動車運転者)」が掲載されておりとても参考になります。一つの事例の判断は↓のとおりです。

 一般的には、「ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由」、「イ 業務遂行上の指揮監督」が重要な要素であると言われています。

 本件との関係では、仕事を断る自由がなかったわけではなく、断ることはルール上は出来たものの、あるとき、連休を取得した際に、それを嫌った会社側がその後は全く仕事を与えなかったという事情もありました。そして2週間連続で勤務しているときが複数回あったという事情もありました。これらは仕事を断れないことを推認する事情であるといえます。このような事情から実質的に仕事の依頼に対する諾否の自由はないと主張しました。

 他方で、業務遂行上の指揮監督については、ほぼ指揮監督がない事案であったため主張が難しかったです。

 また、賃金としても時間単位で支払われるのでなく完全成功報酬であったため、報酬の労務対償性(労働者に対する賃金として支払われる性質の金銭)であると言いにくいところがありました。

 もっとも、実態として勤務時間が長く勤務時間の裁量がないこと、会社の名前の入ったトラックを運転していたこと、雇用保険料、社会保険料が支払わていたこと(これらは個人事業主であれば支払うことにならないものです)などを主張して、労働者であると主張しました。

 裁判所は、労働者である可能性が高いという心証を示しました。

 

 ⑵ 歩合制(出来高払い制)

 歩合制(出来高払い制)に該当すると割増率が0.25倍となります。これは、非歩合制(月給制、日給制、時給制等)の場合の割増率が1.25倍であるのに比べると5分の1となります。また、歩合制の場合、賃金単価は、得た賃金を総労働時間で割って算出します。非歩合制の場合は賃金単価の計算は、得た賃金を所定労働時間で割って算出するのに比べると、残業が増えれば増えるほど賃金単価が下がっていくということになり、労働者には不利です。

 例えば、月額給与25万円、所定労働時間170時間の労働者が、ひと月に1日12時間、月に22日、合計264時間働いたとします。このときのひと月の残業代は、非歩合制であれば約17万円ですが、歩合制であれば約2万円とと手も少ないです。

 ところで、歩合給(正確には「出来高払制その他の請負制」)とは「労働者の賃金が労働給付の成果に一定比率を乗じてその額が定まる賃金」をいうとされていますが、サカイ引越センター事件・東京高判令和6年5月15日判例集未搭載では、会社側が、売上額に応じて賃金を支払っているから歩合給だと主張しましたが、裁判所は、引越運送業の仕事では、引越荷物の積卸作業、引越荷物の運搬が仕事であり、作業量や運搬距離が労働給付の成果であること、売上額は作業量と緩やかに相関するがそのようなレベルでは歩合給とはいえない旨を判断しています。

 そうすると、会社が荷主からもらう金額の●%を支払うという合意であれば、労働の成果と賃金との間の相関関係は弱い(働いたから賃金が高くなるというわけでなく、会社が荷主との間でいい契約をとったから賃金が高くなる)といえ、歩合給ではないと判断される可能性が高いのではないかと思います。

 本件は、まさに会社が荷主からもらう金額の●%を支払うという合意でしたので、歩合給であることは否定できた可能性が高いです。

 最終的に和解によって解決したため、この点の裁判所の判断は示されませんでした。

幸せな生活を取り戻しましょう