【担当事件】トラックドライバー(運転手)の残業代請求 具体的事例の契約書を解説します。その3
1 はじめに
具体的事例をもとに解説をした方が伝わりやすいと思いますが、なかなか、そのような解説記事はないように思います。そこで、私が過去に担当したトラックドライバー(運転手)の残業代請求事件について、具体的事例の契約書をもとに解説をしたいと思います。
休憩時間の定めが長いこと、固定残業手当の額とそれが想定する時間との間に乖離があること、固定残業手当が想定する残業時間と実際の残業時間に乖離があることが指摘できる事例について解説します。
2 契約書の内容
契約書の内容は以下のとおりです。以下では、契約書の①~③について解説します。
3 ①休憩時間の定めが実際にとれる休憩時間よりも長すぎる
①この契約書では、休憩時間が120分となっています。このような契約書が存在すると、実際に120分の休憩時間が取れていなくても、120分の休憩が取れていたとして労働時間が計算される可能性が高まります。
仮に、一日60分しか休憩が取れていないとすれば、1日あたり60分の残業時間の違いが生じます。請求可能な3年分の残業代に換算すると約200万円の違いが生じます(賃金単価が2000円、月の就労日数が23勤の場合)。
私の感覚では、トラックドライバーの方で120分の休憩時間が取れている方は稀です。休憩時間を120分取っていることを前提とする契約書を作成していること自体から、使用者(雇い主)が、労働時間を正確に計算するつもりがないのではないかと推認されます。
労働者として、不利益を受けないように、本当に休憩時間が120分あるのか、労働契約締結時に確認した方がいいです。確認の結果、そんなに休憩時間が取れないということがわかるのであれば「60分」などに変更してもらいましょう。また、120分取れるという説明がされたのであれば、それを録音しておき、実際に働くときに120分の休憩をしっかりとりましょう。
4 ②大型運転免許を持つトラックドライバーにしては基本給が低すぎる
時間単価は1093円(基本賃金月額190,000円÷月所定労働時間の上限値173.8時間)です。
割増賃金の支払いとして適法といえるには、通常の労働時間の賃金(≒基本給)に当たる部分と時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分とを判別できないといいけないとされています。
本件の基本給は、大型運転免許を持つ者の賃金としては低すぎます。実質的には、「定額残業手当」の名目で基本給の一部が支払われていると考えられます。
そうすると、通常の労働時間の賃金(≒基本給)に当たる部分と時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分とを判別できないことになります。
そのため、「定額残業手当」の支払いをもって、残業代を支払ったとはいえないことになる可能性が高いです。
5 ③固定残業手当の額と想定残業時間に不一致があり、実際の残業時間との不一致がある
固定残業手当8万2800円は40時間相当とされていますが、実際には60時間に相当する金額になっています(計算式:8万2800円÷(時間単価1093円×1.25倍)。そうすると、固定残業手当には、残業の対価でないものが入っていると評価できます。
また、固定残業手当が予定した残業時間より、実際の残業時間が長すぎる(乖離が大きすぎる)場合には、残業手当は残業の対価とは評価しにくいです。
以上のことを指摘して、残業手当による残業代の支払いは無効という指摘をしました。
6 まとめ
以上ご説明したとおり、契約書はとても重要な書類です。働き始めるときに必ずチェックしてもらいたいと思います。できれば、弁護士にご相談いただいた方がよいと思います。
ご相談料は30分5,500円(税込)かかりますが、その後の大きな不利益を回避するための支出としてはそれほど高くないのではないかと思います。
トラックドライバーの方の場合、なかなか弁護士事務所に行って相談をするというのが難しいと思います。私の場合はLINEやZoomなどでもご相談いただくことは可能です。直接事務所に来ていただくことなく相談が可能です。遠慮なくお問合せください。