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【労災・脳心臓疾患・過労死】セールスドライバー(トラックドライバー)として働いていた労働者Kが、くも膜下出血を発症し死亡したことの業務起因性(労災に該当するのか)が争われた国・熊本労基署長(ヤマト運輸)事件・熊本地判令和元年6月26日労働判例1210号19頁について解説します。

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1 はじめに


 本日は、ヤマト運輸においてセールスドライバー(トラックドライバー)として働いていた労働者Kが、くも膜下出血を発症し死亡したことの業務起因性(労災に該当するのか)が争われた国・熊本労基署長(ヤマト運輸)事件・熊本地判令和元年6月26日労働判例1210号19頁について解説します。

 なお、【労災】脳・心臓疾患の労災認定基準の基本を説明します。 (fukuoka-roudou.com)において、脳・心臓疾患の労災認定基準の基本的考え方を説明していますので、こちらもご参照ください。

 

2 事案の概要


 ⑴ 業務内容の概要並びに発症及び死亡に至る経緯

 Kは、平成18年6月16日にヤマト運輸(株) (以下、「本件会社」)に入社し、セールスドライバーとして宅急便の配達、集荷業務に従事していました。

Kは、26年12月14日午後9時30分頃、会社のB支店の駐車場において、くも膜下出血を発症し(以下、「本件発症」),同月○日午前2時3分頃、死亡しました。

 ⑵ 業務内容、始業時刻、休憩時間、終業時刻

本件会社のB支店では、アシストが午前5時頃に出勤して、各セールスドライバーの担当車両に、午前配達予定の荷物を積み込むこととされていましたが、セールスドライバーも, この積込作業を手伝ったり釣銭準備金を用意したりするために、早めに出勤することがありました。同支店では所定の昼休憩時間は1時間とされていましたが、同休憩時間中に、セールスドライバーは、午後配達予定の荷物の積込みや、配達経路の確認のための伝票確認などの業務を行うことがありました。 セールスドライバーの集荷・配達業務が終了するのは午後9時頃であり、セールスドライバーは、 B支店に戻った後、集荷物や配達できなかった荷物をトラックから降ろし、常温・冷凍別にボックスに戻したり、集荷代金を入金したりすることとされていました。

 ⑶ 休日

B支店のセールスドライバーは、おおむね3日に1回公休日を取得していましたが、繁忙期については、公休日を前後の月に振り分けて取得し、なるべく公休日をとらないよう調整していました。

 ⑷ 時間外労働時間等

Kの本件発症前1か月間(平成26年11月15日から同年12 月14日)の1日の拘束時間数は、6時間~14時間余りであり、同期間の時間外労働時間数は102時間であった。Kは、同期間中に休日(公休)を8 日取得しましたが、26年12月5日から同月10日までは 6日連続の勤務であり、本件発症1週間前の時間外労働時間は41時間34分でした。

 ⑸ 業務外の発病要因

 Kは、2日に1箱程度のペースで喫煙する習慣を有していました。

 ⑹ 被告及び処分行政庁が算定した時間外労働時間

 Kの時間外労働時間は、本件発症前1か月間が90時間29分であり (処分行政庁による本件処 分時の算定時間は89時間4分である。)、本件発症前 2か月間ないし6か月間にわたる1か月当たりの時間外労働時間は平均40時間20分ないし61時間40分であるとされていました。

① 発症前1か月間におおむね100時間

または

② 発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間

を超える時間外労働が認められるかが基準ですので、被告及び処分行政庁の算定した時間外労働時間では足りないということになります。

 

 ⑺ 争点

 本件の争点は、本件発症および死亡に業務起因性があるか否かでした。

 

3 判断方法


 ①裁判所は、(御幣を恐れず要約すれば、)本件発症および死亡に業務起因性があるといえるためには、業務と疾病等の間に相当因果関係があるといえる必要があり、これがあるといえるのは疾病等の結果が業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要としました。

②また、業務に内在する危険性の有無を判断は、当該労働者と職種,職場における立場,経験等の点で同種の者であって,特段の勤務軽減を要することなく通常業務を遂行することができる平均的労働者を基準とすべきとしました。

③そして、認定基準は、法的な拘束力がないものの、判断基準としての合理性を有するから、業務起因性を判断するに当たっては,認定基準の定める要件についてその趣旨を十分考慮しつつ検討するのが相当であるとしました。

①~③の流れは、業務起因性を判断するにあたり、多くの裁判所が採用する考え方といえるます。

実務的に重要なのは、裁判所は認定基準に法的に拘束されないので、例えば、認定基準に満たないとしても、諸般の事情を考慮して業務起因性を認めることがあるということです。

 

4 勝負の分かれ目


 本件では、Kの本件発症前1か月間の時間外労働時間数が102時間と認められた点が重要なポイントであると考えられます。この認定を支えたのは、次の2点です。

 まず、①1時間あるとされていた休憩時間について44分は休憩が取れていなかったと認定されたことだと思います。

 ヤマト内において、セールスドライバーに対して、休憩時間が取得できているかについての調査(平成29年調査)がされており、平均すると44分であったこと、Kの働き方は他のドライバーと変わらなかったことが上記認定の大きな要因の一つとなっています。

 次に、②夕方の休憩時間20分について、証人2名が「夕方の休憩時間は,取れている日も取れていない日もあり,取れたとしても,たばこを吸う時間程度しか取れていなかった旨述べているところ(乙13,15,証人F),亡Bは他のセールスドライバーに比して配達等に時間がかかっていた一方で,亡Bが朝早く出勤したり夜遅くまで業務を行ったりしていたとは認められない。そうすると,亡Bは基本的には,夕方の休憩時間をとることができていなかったと認めるのが相当である」と判断されています。

 ①調査の存在を知り裁判の証拠として提出させ、また、②の証人を準備し法廷にて証言をさせたKの代理人の活動が奏功した事案であるといえます。

 なお、これらの点の他にも、セールスドライバーの業務内容は,長時間の運転業務を伴う配達・集荷作業等といった一般的に肉体的・精神的負担が大きい業務と考えられるし,亡Bの本件発症前1か月間の拘束時間は280時間54分(1日平均12時間46分)であるから,拘束時間の長い業務であったと評価されています。

 

5 業務以外の要因


なお、この裁判例では「業務以外の要因について見ると,亡Bは,2日に1箱程度の喫煙をする習慣を有していたものの,特に多量であるとまではいえず,死亡当時46歳の健康な男性であって,他に既往歴や脳疾患のリスクファクターを有していたとは認められない。」と判示されています。

 

6 まとめ


 時間外労働時間の事実認定が勝敗を分けた事案です。どのような証拠が現場にあるのか、証人は準備できるのかをしっかり考える必要があるでしょう。

 

幸せな生活を取り戻しましょう