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【労災・脳心臓疾患・精神疾患】主張の仕方により、労働者側の事情(素因・過失)によって請求額を減額されない可能性があります。

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1 はじめに


【労災・過労死・過労自死】労働者側の事情(素因・過失)により損害賠償額が減額される場合とは? (fukuoka-roudou.com)において、労働者側の脳心臓疾患・精神疾患などの既往症などにより、労働者から会社(使用者)に対する損害賠償額が減額されることがあることについて説明しました。

しかし、例えば、労働者の生存事案において、労働者が会社の安全配慮義務違反によって、脳心臓疾患または精神疾患に罹患し、労働者が働けなくなった場合に、損害賠償請求ではなく、不就労期間の賃金請求(民法536条2項前段)をすれば、労働者側の事情(素因・過失)によって請求額が減額されることにはなりません。

この点について説明します。

 

2 民法536条2項前段


 民法536条2項では、①「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」②「この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」と定められています。前段とは①のことです。

 ここでの債権者とは、労働者の労働力を受領する権利がある会社(使用者)であり、債務者とは、労働力を提供する義務のある労働者です。

 労働事件の場面を念頭に説明すると、安全配慮義務違反という会社(使用者)の責任(責めに帰すべき事由)によって、労働力を提供する債務を履行するできない(働けない)ときは、債権者である会社(使用者)は、反対給付である賃金支払義務の履行(支払い)を拒むことができないということを定めていることになります。

 なお、一般的に、民法536条2項に基づいて賃金を請求する際には、労働者の就労の意思又は能力があることが必要と考えられています。なぜなら、労働者の就労の意思又は能力がないなら、働けないことが会社の責任によって生じているとは必ずしも言えないからです。

 

3 東芝(うつ病・解雇)事件(東京高判平23・2・23労判1022号5頁)


 この裁判例は、労働者の就労意思又は就労能力の喪失が使用者の責めに帰すべき事由による場合には、なお、債権者の責めに帰すべき事由による履行不能といえ、労働者は賃金を失わないことになると考え、使用者の安全配慮義務違反によりうつ病を発症した事案において、使用者の責めに帰すべき事由により、労働者が労務提供の意思を形成し得なくなった場合には、債権者の責めに帰すべき事由による履行不能であり賃金請求権を失わないとしています(この点は、アイフル(旧ライフ)事件・大阪高判平成24年12月13日労働判例1072号55頁も同じ判断をしています。)。

 更に、重要なポイントとして、「労基法24条1項本文が賃金の全額支払を使用者に対し義務付けていることにかんがみると,賃金の支払請求につき,過失相殺ないしその類推適用を認めることはできないと解される。」と判断しています。

 この判断からすると、賃金を請求した場合、労働者側の事情(素因・過失)によって請求額が減額されることにはなりません。

 一方で、賃金を受け取った場合には、労災の休業補償給付を受け取っていた場合には、休業補償給付は不当利得になり返還をしないといけないと判断されています。

もっとも、健保組合からの傷病手当金等や労基署からの休業補償給付等の給付は賃金を填補する関係にないから,Xがこれらの給付を受領していることをもって,Y社が支払うべき賃金の額を減額すべきことにはならないと判断されています。

 

4 まとめ


 請求の在り方によって、請求できる金額が大きく変わってきます。どの請求をすれば依頼者の利益を最大化できるかを考えるのは弁護士の腕の見せ所です。請求の仕方で支払われる額が大きく変わる可能性があるということは知っておいていただければと思います。

幸せな生活を取り戻しましょう