労働に関するお悩みはお気軽にご相談ください

tell-iconお電話での
ご相談予約はこちら

mail-iconメールでの
お問い合わせはこちら

LINE

トップページ

【労災、過労死】地裁(福岡地判令和4年9月9日)が否定した脳出血発症による死亡の業務起因性を肯定した国・岡山労基署長(NEC)事件・福岡高判令和5年9月26日労経速2537号3頁を解説します。

トップページ

1 はじめに


 本件では、脳出血発症による死亡の業務起因性が争点になりましたが、地裁(福岡地判令和4年9月9日)はこれを否定し、高裁(福岡高判令和5年9月26日)はこれを肯定しました。

 結論を大きく分けたのは、労働時間の立証です。地裁では過労死ラインを超える時間外労働が認定されていませんでしたが、高裁では、追加立証により「発症前6か月間の平均時間外労働は81時間」などと認定された点にあると思われます。

 もっとも、地裁段階でも過労死ラインに迫る時間外労働は認められており、地裁段階でも業務起因性が認められてもよかったと思える事案です。

 地裁が業務起因性を否定した理由を検討することで、ギリギリのラインでどのように主張立証すべきかを検討したいと思います。

 

2 地裁の判断


 ⑴ はじめに

 被災労働者亡B(本件疾病発症当時46歳)は、平成3年4月1日に本件会社に入社し、平成24年4月1日から本件会社の中国支社(広島県所在)が統括する岡山支店の支店長として勤務していた方でした。

地裁判決は、(1)本件疾病発症直前の異常な出来事、(2)短期間の過重業務についても検討していますが、(3)長期間の過重業務に絞って、以下、検討します。

(3)長期間の過重業務については「量的過重性」と「質的過重性」に分けて検討がなされています。

 ⑵ 量的過重性

認定された時間外労働時間は以下のとおりです。6か月平均では76時間を超えており、月平均80時間を超えるところまであと一歩という時間でした。

     発症前1か月 90時間16分
     発症前2か月 50時間13分 2か月平均 70時間14分
     発症前3か月 63時間07分 3か月平均 67時間52分
     発症前4か月 82時間11分 4か月平均 71時間26分
     発症前5か月 91時間07分 5か月平均 75時間22分
     発症前6か月 81時間23分 6か月平均 76時間22分

 地裁は、以上の時間外労働時間がありつつも、「発症前6か月の時間外労働時間のうちゴルフ及び会食の時間は合計19時間15分」あったと指摘して、「その労働強度は通常より低いものといわざるを得ない」と評価しました。

 また、「3連休をとることができていた」、「本件疾病発症2か月前の時間外労働時間数は50時間13分に止まり、45時間を一定程度上回るにすぎないこと」「概ね1週間に1日は休暇を取得でき」たこと、「本件疾病発症前6か月間、毎月1度は2日間以上の休暇を連続して取得できていたこと」を指摘して、「疲労を回復する機会は一定程度与えられていた」と評価しました。

 ⑶ 質的過重性

・「納期の遵守や突発的なトラブルへの対応を迫られ」たが、亡Bにそれなりの経験があり、例年にない特異な事態もなく、トラブル対応の作業は主に部下と考えらえる。

・10日を超える連続勤務が4回あったが、勤務時間が1~3時間程度の日もあった。

・本件疾病発症前1か月の間に勤務間インターバルが11時間未満の日が6回存在しているが、10時間台が4回、9時間台が1回、8時間台が1回、休日に近接するものもあり、大きな負荷要因ではない。

・亡Bのいた支店は成績がよく、亡Bに過大なノルマを課されていたということはできない

・亡Bには支店長として裁量があり、上司との関係で日常的に緊張関係を強いられる状況にもない

 ⑷ 業務外の事情

「本件疾病発症前の健康診断時における血圧の値は基準値を若干上回るものにすぎなかったが、本件疾病発症の約2年半前には基準値を明らかに超える高い血圧の数値が出ていて、高血圧症状を有していた点や、飲酒や喫煙歴といった点も含めリスクファクターが全くなかったとはいえない」

 

3 高裁の判断


 ⑴ はじめに

 高裁では長期間の過重業務が検討されました。

 ⑵ 量的過重性

 認定された時間外労働時間は以下のとおりです。発症前6か月平均の値が80時間を超えました。

発症前1か月 97時間58分
     発症前2か月 50時間13分 2か月平均 74時間05分
     発症前3か月 67時間37分 3か月平均 71時間56分
     発症前4か月 82時間11分 4か月平均 74時間29分
     発症前5か月 94時間06分 5か月平均 78時間25分
     発症前6か月 97時間20分 6か月平均 81時間34分」

 「認定基準に照らしても、亡Bは、時間外労働の点において、発症前の長期間にわたって疲労の蓄積をもたらす加重な業務に従事していたといえる。」と評価されました。

 ⑶ 質的過重性

・上述した連続勤務と勤務間について「このような勤務状況は、亡Bの疲労の回復を阻害し、疲労を蓄積させたものと考えられる。」と評価しました。

・本件疾病発症の9日前に約18時間に達する長時間の労働を行い、「その内容も、取引先でのトラブルの対応という突発的かつ重要なもので、精神的な負荷が大きなものであったこと、そして、次の勤務まで5時間程度しか勤務間インターバルがなかったこと、その前日(同月24日)の時間外労働時間が約5時間30分、その翌日(同月26日)の時間外労働時間が4時間30分であったことなどからすれば、同月30日が休日であったことを踏まえても、疲労蓄積の負荷を看過することはできない。」と評価しました。

 ⑷ 業務外の事情

「懇親会等においては付き合い程度に飲酒をしていたものの、その他の場面では特に飲酒をしておらず、従前、1日10本に満たない程度のたばこを吸っていたが、平成25年4月頃から禁煙していたこと、平成25年8月の健康診断においては、血圧が高めとの注意を受けたものの、その数値は基準値をわずかに上回るにとどまっていたことなどの事実が認められるところ、飲酒や喫煙についてその程度が著しいものとはいえないことなどに照らすと、これらの事情が、本件疾病が本件会社の業務に起因して発症したことを否定するに足りるものとまでは認め難い。」

 

4 コメント


 冒頭で書いたとおりですが、やはり勝敗を分けた主なポイントとしては、過労死ラインを超える長時間労働の立証の有無だと思います。

 ただ、地裁段階でも過労死ラインに迫る長時間労働の立証はされており、質的過重性についても、連続勤務があり、勤務間インターバルも不十分だったので、地裁で業務起因性が認められてもおかしくない事案だったと思います。

 労働者側弁護士としては、地裁において、業務起因性を否定されたポイントを意識して、主張立証活動をする必要がありそうです。

幸せな生活を取り戻しましょう