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【労災、精神疾患、過労自死】業務による心理的負荷評価表項目7の「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」について参考になる判断をした名古屋高判令和6年9月12日判例集未搭載について解説します。

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1 はじめに


 令和5年9月1日付けで施行された「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づく精神障害の業務上外の認定基準(以下「令和5年認定基準」という。)の「業務による心理的負荷評価表」項目7の「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」のうち、心理的負荷の強度が「中」と判断される例示として「・達成は容易ではないものの、客観的にみて、努力すれば達成も可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った」「・達成が容易ではないノルマが課され、この達成に向け一定の労力を費やした」「・ノルマが達成できなかったことにより、その事後対応に一定の労力を費やした、または一定のペナルティを受けた、強い叱責を受けた、職場の人間関係が悪化した」またはこれに準じる事項があります。

 令和5年認定基準の評価表項目7の「心理的負荷の総合評価の視点」では、「ノルマには、達成が強く求められる業績目標等を含む。」と記載されており、業績目標等にとどまるものであっても達成が強く求められるものであれば「ノルマ」に該当することとなります。

 これについて名古屋高判令和6年9月12日判例集未搭載が参考になる判断をしていますので解説します。

 

2 名古屋高判令和6年9月12日判例集未搭載「(3)達成困難な営業目標(ノルマ)の設定」部分の要約


 -(マイナス)は心理的負荷を否定する方向の事実、+は肯定する方の事実です。後述3において裁判例を引用しますが、その要約になります。

 

-①営業目標は職員の意見を聴きながら設定

-②プロセス考課重視

+③営業の成果がなければ金融機関は成り立たない

+④無理のない範囲で設定された事実は認められない

+⑤営業目標不達成には厳しい叱責や「給料泥棒」と言われる

 ⑥(①②があっても③④⑤があれば)達成可能な範囲とはいえない。

+⑦⑧自爆営業がノルマ達成のためだけに行われている。→営業目標の厳しさが示されている。

+⑨上司が「親に頼んで」「仕事を引っ張てこい。」と詰め寄る

+⑩「給料泥棒」という叱責はそれ自体がペナルティと評価できる。

 

 以上から、心理的負荷の程度は「強」に近い「中」と評価しました。考慮要素として参考になります。

 

3 名古屋高判令和6年9月12日判例集未搭載「(3)達成困難な営業目標(ノルマ)の設定」部分


 以下、引用ですが、①などの記号は西野によります。

「Z支店においては、建て前上は、各職員の営業目標の数値は、①職員の意見も聞きながら設定され、上司が一方的にその設定を行うものではなかったし、本件信金におけるアウトプット(成果)考課では、営業目標の達成率等が考慮されるほか、業務改善や後輩職員の指導など営業目標以外の点も総合して評価され、プロセス(過程)考課では業務スキルや業務に向かう姿勢等に重きを置いた評価がされ、②総合評定ではアウトプット(成果)考課よりもプロセス(過程)考課の比重が大きく設定されていたことが認められる。しかし、そもそもいくら過程(プロセス)が良くても、最終的には、③営業によって成果(アウトプッ ト)を上げなければ、金融機関として成り立たないし、過程(プロセス)が良いか否かは、結局は成果(アウトプット)が上がるようなものであったか否かということにならざるを得ないのであるから、本件信金におけるパワハラ対策が実効性のないものであったのと同様に、いわば外向けの綺麗事である可能性が高いし、少なくともB支店長が着任して以降のZ支店においては、④営業目標の数値が実際に職員にとって無理のない範囲で設定されていたとの事実は認められないし、⑤B支店長が、部下職員の営業目標の不達成に対して厳しい叱責を行い、「案件取らぬ者は給料泥棒」などと述べていることからすると、⑥上記のような建て前はあるとしても、これによってZ支店における営業目標(ノルマ)が一般的な金融機関の営業職員であれば達成可能な範囲で設定されていた認めることはできない。また、⑦必要のない親族名義のクレジットカード等の契約を締結したりすること(いわゆる自爆営業)は、通常の営業活動の範囲内にあるということは到底できない。すなわち、Aは、平成23年から平成26年までの間に、必要のないCを含む親族名義のクレジットカードを無断で契約するなどした上、本人に渡さずに自分で保管し、会費を負担していたのであり(甲 A2の1・266~276頁、甲A12、証人C)、これは、⑧ノルマ達成のためにのみ行われていたものであると認められ、自爆営業を行っていたのであるから、Z支店における営業目標が厳しいものであったことを示しているということができる。クレジットカードを勝手に契約しても許されるような関係の親族等の数には限りがあると考えられることからすると、その後に同様の行為が確認できないからといって、営業目標が軽くなったということはできない。そして、⑨B支店長が、Aに、「おまえの家、金持ちなんだから親に頼んでどうにかなるだろう、仕事を引っ張ってこい。」などと詰め寄っていることからすると、少なくともAについては、自爆営業を余儀なくされるような達成困難な営業目標が設定され、自爆営業が限界に達した状況にあってもなお、同様の自爆営業的な手段まで使った営業目標の達成を要求されていたことが優に推認されるのである。しかも、B支店長が、部下職員の営業目標の不達成に対し、⑩「案件取らぬ者は給料泥棒」と述べるまでして厳しい叱責を行っていることは、それ自体が目標を達成できなかった場合のペナルティーと評価することができるし、「給料泥棒」という表現により、給料面や待遇面でも不利益を与えることを示唆しているといえるのである。このようなB支店長の営業目標不達成者への非常に厳しい対応は、後記の住宅ローン案件についてのB支店長の保身的な対応をみると、支店長としての自分の立場を守り、あるいは手柄とするために、必要以上に厳しくなっていたことが推認できるのである。以上のとおり、Aは、自爆営業まで行い、既にその限界に達していたのに、B支店長から、その継続を要求され、案件が取れないことについて「給料泥棒」 などと罵られ、胸倉を掴んで罵倒されていたのであるから、達成困難な営業目標(ノルマ)の設定という点のみにおいても、一般的な金融機関の職員にとって、その心理的負荷の程度は少なくとも「中」に該当し、「強」に近いものであったというべきである。

 

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