【トラック、運送業、物流事業者】下請法の「買いたたき」の概念が明確化され「買いたたき」が成立しやすくなりました。
1 はじめに
労務費や燃料の高騰により、運賃を上げたい物流事業者は多いと思います。
しかし、トラック運送事業は価格転嫁率が全業種で最下位です(【価格交渉】トラック運送事業は価格転嫁率が全業種で最下位。より価格交渉の充実が望まれます。 (fukuoka-roudou.com))荷主や元請けによる「買いたたき」(通常支払われる運賃に比べて著しく低い運賃を不当に定めること)が多い業種と言えるかもしれません。
物流事業者の運賃が上がることが、トラックドライバー(運転手)の賃上げに繋がります。
トラックドライバー(運転手)としては、会社に上手に賃上げ交渉をしてもらいたいですよね。どうしたら、「買いたたき」をされずに運賃を上げる交渉ができるのでしょうか?
結論から言えば、下請法違反の可能性を指摘して、買いたたきをしたら、公正取引委員会による勧告や指導がされるということを指摘することになると思います。
2 下請法運用基準の改正により「買いたたき」が明確に
令和6年5月27日に「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正が行われました。(令和6年5月27日)「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正について | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)
改正の内容は、運用基準の新旧対照表240527_unnyou2.pdf (jftc.go.jp)に分かりやすく示されています。
令和5年11月29日に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」等を踏まえ、下請法上の買いたたきの解釈・考え方が更に明確になるよう、下請法運用基準の改正を行われました。
改正内容を説明しますと、下請法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対
価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」であるとされています。
そして、「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、次の額を「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱う。
ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額
イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額
と改正がされています(改正箇所は下線部です。)。
要するに、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針 | 公正取引委員会 (jftc.go.jp))を踏まえないといけないことになり、特に「イ」が重要で、コストが著しく上昇しているのに下請け代金が据え置かれた場合には、「買いたたき」に該当することが明確化されました。
「イ」については、トラック輸送の「標準的な運賃」(【標準的な運賃】トラック輸送では「標準的な運賃」が定められています。 (fukuoka-roudou.com))を前提に、下記3に記載した公表資料が参照されます。
3 労務費の上昇傾向示す資料は最賃や春季労使交渉などの公表資料を用いる
労務費の転嫁のための価格交渉については指針があります 【トラックドライバーの賃金】「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」について (fukuoka-roudou.com)。
特別調査において、 労務費を含めた自社のコスト構造を発注者に開示することにより 、逆に発注者から コストを査定され原価低減を求められる可能性があることを懸念する声が寄せられたようです。
他方で、 特別調査において、労務費上昇分の価格転嫁の交渉に際し、根拠資料を用いずに行い価格転嫁が認められた事例や 、根拠資料として自社の労務費に関する情報を発注者に開示せずに行い価格転嫁が認められた事例は多数みられたとのことです。
こうした現状を踏まえ、仮に発注者との関係で何らかの根拠資料を示す必要がある場合には 、 関係者がその決定プロセスに 関与し、経済の実態が反映されていると考えられる以下のような公表資料を用いるべきとされています。
①都道府県別の最低賃金 やその上昇率
②春季労使交渉の妥結額やその上昇率
③国土交通省が公表している公共工事設計労務単価における関連職種の単価やそ の上昇率
④一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃(令和2年国土交通省告示第575号)
⑤厚生労働省が公表している毎月勤労統計調査に掲載されている賃金指数、給与額やその上昇率
⑥総務省が公表している消費者物価指数
⑦ハローワーク (公共職業安定所の求人票や求人情報誌に掲載されている同業他社の賃金)
また、価格交渉のタイミングも重要です。指針では、「発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミング など の機会を活用して行うこと。」という言及がありました。他にも、「最低賃金の引上げ幅の方向性が判明した後」など、社会的に見て賃上げの必要性が高まっているときに賃上げ交渉をするのが有用でしょう。
4 独占禁止法及び下請法が対象とする取引
トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン10_truck.pdf (meti.go.jp)において以下の図などにより分かりやすく説明がされています。
下請法では、物流事業者間を対象としていますが、荷主と物流事業者間は物流特殊指定として対象となっています。詳細は下記の図などのとおりです。
⑴ 物流特殊指定の対象となる取引
・荷主の子会社の取扱いについて
荷主が、自社の物流子会社を通じて運送サービス又は倉庫における保管サービスを委託する場合には、物流子会社が荷主とみなされる(この場合の資本金額は、親会社である荷主の資本金額で判断される)。一方、物流子会社であっても、親会社でない荷主等から運送業務を受注した場合には、物流特殊指定の特定荷主となりません。
・優越的地位について
取引の一方の当事者(甲)が他方の当事者(乙)に対し取引上優越した地位にある場合とは、乙にとって甲との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、甲に対する取引依存度、甲の市場における地位、取引先変更の可能性、取引対象商品の需給関係等を総合的に考慮するとされています。
⑵ 下請法の対象となる取引
・トンネル会社の規制
下請事業者に運送委託をすれば下請法の対象となる場合、資本金が 3億円(又は千万円)以下の子会社(トンネル会社)等を設立し、この子会社が発注者となって運送委託を行う場合、下記の2つの要件を共に満たせば、その子会社等が親事業者とみなされ、下請法が適用されます。
① 親会社から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受けている場合(例えば、親会社の議決権が過半数の場合、常勤役員の過半数が親会社の関係者である場合又は実質的に役員の任免が親会社に支配されている場合)。
② 親会社からの下請取引の全部又は相当部分について再委託する場合(例えば、親会社から受けた委託の額又は量の 50%以上を再委託している場合。)。
5 終わりに
買いたたきに該当すれば、公正取引委員会による勧告や指導がされます。これは企業としても避けたいでしょう。そのため、運賃を上げる動機が生じるといえます。