【セクハラ】非性的部位への接触、セクハラ発言、セクハラ環境の事案と損害額を紹介します。(その2)
1 はじめに
仕事中にセクハラに当たると考えられる言動があったとしても、それが胸などの性的部位に対する接触でない場合には、損害賠償が認められるのか、また、認められたとして損害額がいくらになるのかがはっきりしないと感じる方がおおいのではないでしょうか?
そこで、この記事では、性的部位に対する接触ではないセクハラ事案(非性的部位に対する接触、発言、環境によるセクハラ)においてどの程度の損害賠償が認められたのかについて、できるだけコンパクトに関連裁判例を紹介します。
2 裁判例
⑴ 高松地判令和元年5月10日判例秘書L07450570 損害額30万円
ア 事案
・被害者X(女性、昭和39年生まれ、非常勤嘱託職員)、加害者Y(昭和36年生まれ、男性、専務執行役員)
①歓送迎会後Xの意に反して,Xの手や腰に触れた。
②原告のスカートの裾を持ち上げた。
③液体コンドームの画像をXに見せた。
④自身の病状を説明する中で勃起との言葉を使った。
イ 損害額
①,②の行為は,原告に対する身体的接触を伴うものであり,退職の意思表示の一因にもなったと考えられる。一方,いずれのセクハラ行為も著しく悪質であるとまでは評価できず,③④の行為は,原告に不快感を抱かせるにとどまること,その他,本件に現れた一切の事情に鑑みると,原告の精神的苦痛を慰謝するための金員としては,30万円が相当である。
⑵ 大阪地判平成24年11月29日労働判例1068号59頁 損害額30万円
ア 事案
・被害者X(女性、非常勤嘱託職)、加害者Y(男性、専務取締役)
・Xが主張した以下の主張は主要な点について認めることができると認定されました。
① 暴言
・「アホ」「ボケ」「カス」「死ね」などの暴言を繰り返すようになった。
・会社の電話に出たXに対し,「何やその態度,やる気ないんか」「何でそんなに声が小さいんや」「電話はワンコールで出え。ワンコールで出なかったら,何やこの会社って思われるやろう」ときつい口調で叱りつけた。
・Xを社長室に呼び出し,「何や,お前,その態度」「やる気がないなら帰れ」などと大きな声で怒鳴りつける形で1時間程度説教をし続けることもあった。
・Xを社長室に呼んで長時間話して拘束するため,Xが「ちょっと仕事があるので仕事に戻りたいんですけど」と退出したいと述べると,「お前,何様やねん」「それはお前が決めることじゃないやろう。俺が決めることや」などと言って,反論を許さないという態度でXを怒鳴りつけた。
・Xは,Yから前記暴言を受け続けたため,平成23年1月ころ,Yの声を聞いたり,顔を見たりすると頭痛がして気分が悪くなったり,背中が痛くなったりしており,医師に受診したところ,頸椎症,円形脱毛症と診断された。Yはそれを知るや,Xに対し,「それは鬱やろう,お前」「鬱であろうが,何であろうが,お前のことは追い込んでやる。ギリギリ死ぬかなというところでやめてやる」と言って恫喝した。
② 理不尽な職務命令・取扱い
・Xに,時計,パソコン等の私物の修理等を手配させた際,業者に「~はできないのか」と尋ねてこいと命じ,Xが,業者ができないと言っているなどと報告すると,「ほんまにでけへんのか。お前はぐうの音も出ないほど,そこまで詰めて聞いたんか」「できますという回答が来たらどうするんや」などと不必要にXを問い詰めた。
・Xに対し,「ないとかあかんぞ」などと言って,段ボールに入っている過去の確定申告関係の書類を見つかるまで探すように命じ,Xが探してもどうしても見つからず,その旨報告すると,「全部探したのか」「会社中の段ボールを全部探したんか」などとXを責め立てた。
・Xに対し,減給を行った。
・他の従業員に恫喝的な叱責をした際,Xを呼び出し,「今日はあの子にこういうふうに言うたんやけど,どういう態度だった」「どういうふうにしてた」などと尋ね,他の従業員の様子をXから探り出そうとしたり,「この車買いたいんやけど,どう思う。いくらやと思う」などの自慢話で1時間以上の長時間にわたってXを拘束したりした。
③ 時間外・休日の拘束
・Xが所用があるので定時の帰宅を申し出ても,「もう帰るんか」「やり残した仕事はないのか」「もし俺が探して出てきたらどうするんや」などと言って定時どおりの帰宅を許さず,子供の世話の必要から早く帰らせてほしいと述べても,「普通は定時に帰るもんや。お前の仕事がどんくさいから違うんか」「子供なんてほっといても大丈夫や」「お前が甘やかすからあかんのや」などと述べて,やはり帰宅を許さなかった。
・Xが休みの日であっても,電話をかけ(ママ)きて,Xがすぐに電話に出ることができずに折り返すと,「何で電話に出ないんや。休みの日やからこそ電話に出るもん違うんか。俺はこれを聞きたかった。あれを聞きたかった」などと述べてXの時間を拘束した。また,深夜午前1時ころに「今何してんの」などと電話をかけてきて,Xが「寝てます」と答えると,「俺は今接待してんねん。俺が仕事してるのにお前だけ寝れてええな」「何回でもまた電話したるからな」と言って休息を妨害したこともあった。
・Xが休暇を申し出ても,「何で休むんや」「せなあかん仕事はないのか」などと言い,原告が「ありません」と答えると,「俺が探して後から出てきたらどうするんや」などと言って休暇を許さなかった。
イ 損害額
その態様など諸般の事情を考慮すれば,少なくとも30万円とするのが相当である。
⑶ 東京高判平成20年9月10日労働判例969号5頁 損害額約170万円
ア 事案
・被害者X(女性、契約社員)、加害者Y(男性、店長)
・『頭がおかしいんじゃないの。』,『僕はエイズ検査を受けたことがあるから,Xさんもエイズ検査を受けた方がいいんじゃないか。』,『秋葉原で働いた方がいい。』と発言した。
→本件におけるYとXとの関係は,上司と部下という関係にあり,前記のとおり平素からさして打ち解けて話すこともなかったのであり,上記各発言が職場におけるXの仕事ぶりに対する店長としての部下に対する指導目的から発したものであったものとしても,上記各発言は,全体的にみると,XにおいてYの上記各発言を強圧的なものとして受け止め,又は性的な行動をやゆし又は非難するものと受け止めたことにも理由があるいうべきであり,男性から女性に対するものとしても,上司から部下に対するものとしても,許容される限度を超えた違法な発言であったといわざるを得ない、と評価されています。
・業務を終え更衣室へ向かう途中で『処女にみえるけど処女じゃないでしょう。』と言った。
→その必要性が全く認められず,ただXの人格をおとしめ,性的にはずかしめるだけの言動であるし,他の従業員も同席する場において発言されたことによって,Xの名誉をも公然と害する行為であり,明らかに違法である、と評価されています。
・『●×店にいる男の人と何人やったんだ。』,『何かあったんじゃない?キスされたでしょ?』,『俺にはわかる,知ってる。』などと発言し,シャドウボクシングのまねごとをXに向かってした。
→現実に殴打するまでには至っていなくとも違法な有形力の行使としての暴行と解する余地が十分にある。),そもそも前記のとおりYとXの関係が打ち解けたものではなかったことに照らすと,極めて不適切な行動であった、と評価されています。
イ 損害額
・慰謝料 50万円
前記認定のYの各言動は全体として,Xの人格をおとしめ,Xを本件店舗において就業しづらくする強圧的ないし性的な言動といえ,職場における上司の指導,教育上の言動として正当化しうるものでもなく,それによって,菓子作りが好きで高校卒業後の職場として選んだ店舗における勤務を断念することとなったXが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当である。
・逸失利益 99万5616円
本件においてXが被った精神的打撃とそれによる就労困難性を客観的に証明するに足りる証拠はないが(X本人14頁参照),Xは平成18年7月の時点でも退職を望んではいなかったこと(X本人),Xの年齢(昭和61年○月○○日生まれ。したがって,YのXに対する問題の言動があった平成18年当時成人になる前後であった。),Xの受けた困惑,恐怖等及びXが会社に退職を申し出た後の経緯等を総合考慮すると,Xにおいて,上記退職申出後直ちに会社の他の店舗に異動して就労することは困難であったと認められるのみならず,Xに対し,平成18年7月から本件訴えを提起した日である同年12月20日までの約6か月の間に会社から離職すること又は会社以外の就職先を早期に探して就職することを決断すべきであったというのもXに難を強いるものであるといわざるを得ず,Xが精神的に回復して再就職するまでには少なくとも6か月程度の期間を要するものと認めるのが相当である。
したがって,Xの平成18年7月の給与手取額は16万5936円であるから(甲2),これの6か月分(99万5616円)相当程度の逸失利益として99万5616円の損害を認めるのが相当である。
・弁護士費用 20万円
3 コメント
以上のいずれの事案も極めて問題のあるセクハラですが、慰謝料は50万円以下にとどまっています。セクハラによる精神的苦痛が極めて大きいことが適切に損害額に反映されていないと感じます。もっと、裁判所が変わらないといけないと思います。