お知らせ
【残業代、トラックドライバー】残業手当等、調整手当の名目による残業代支払いが無効とされた最高裁判例を説明します。
1 はじめに
残業手当等、調整手当の名目による残業代支払いが無効とされた最高裁判例として、熊本総合運輸事件・最二小判令和5年3月10日労働判例1284号5頁があります。
労働者の方(特にトラックドライバー)にお読みいただきたいため、正確性はやや劣りますが、わかりやすさを優先したコンパクトな解説をします。
2 事案
旧給与体系では、日々の業務内容等に応じて、まず月の賃金総額を決め、それを上記図のとおり【旧①】基本給及び基本歩合給に単に割り振って支払っていました。
新給与体系となった後も、日々の業務内容等に応じてまず月の賃金総額を決め、それを上記図のとおり【新①】基本給等、【新②】本件時間外手当、【新③】調整手当に単に割り振って支払っていました。
なお、正確には、【新①】基本給等は「基本給、基本歩合給、勤続手当等」、【新②】本件時間外手当は「残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当」という項目にさらに分かれていました。
【旧①】と、【新①+③】はほぼ同額で、【旧①】の時間単価は約1300円でした。【新①】の時間単価は約840円でした。
1ヵ月当たりの時間外労働等の時間は約80時間でした。
【新②】は、【新①】の時間単価約840円×約80時間で計算されていました。
平均すると支給額は【新①】は月額12万円、【新②】は月額約9万円、【新③】は月額約10万7000円でした。
3 最高裁の判断
最高裁は「旧給与体系における通常の労働時間の賃金(=基本給及び基本歩合給)は、新給与体系の基本給等及び調整手当の合計に相当する額と大きく変わらない水準、具体的には1時間当たり平均1300~1400円程度であったことがうかがわれる。一方、新給与体系では、基本給等のみが通常のみが通常の労働時間の賃金であり本件割増賃金は時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、1時間当たり平均約840円となり、旧給与体系の下における水準から大きく減少することとなる。」と判示しました。
⇒新給与体系の本件割増賃金には給給与体系の通常の労働時間の賃金(【旧①】)が含まれており、本件割増賃金を残業代だけと見ることはできないといい観点と思われます。
また、「1か月当たりの時間外労働等は平均80時間弱であるところ、これを前提として算定される本件時間外手当をも上回る水準の調整手当が支払われていることからすれば、本件割増賃金が時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、実際の勤務状況に照らして想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系が導入されたこととなる。」と判示しました。
⇒調整手当は本件時間外手当の額を上回っています。この事案で、本件割増賃金が本当に残業代であるとすれば、計算上支うべき残業代の2倍以上の残業代が支払われていることになります。これはいかにもおかしいです。本件割増賃金には、残業の対価ではない基本給などが含まれているという観点と思われます。
そして「基本歩合給の相当部分を調整手当として支給するものとされたことに伴い上記のような変化が生ずることについて、十分な説明がされたともうかがわれない。」と判事しています。
⇒説明が不十分であるという点も残業代支払が有効ではないという方向で指摘されています。
以上から、最高裁は、本件割増賃金【新②③】は、残業代の支払いとして無効であり、【新①②③】の合計額を基にして残業代を計算するように求めました。