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【安全配慮義務違反、適応障害】教員の適応障害発症が安全配慮義務違反に基づくかが争われた大阪府(府立高校教員)事件・大阪地判令和4年6月28日労働判例1037号5頁について解説します。

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1 はじめに


 本件は、高校に勤務する教員歴6年目の若手教員が、長時間労働だけでなく、平成28年度は世界史の授業を担当すると共に、生徒会部に所属し、国際交流委員会の委員や、卓球部顧問、ラグビー部副顧問等を務め、また、平成29年度は、世界史の授業を担当するとともに、1年生のクラス担任を務め、生徒指導部に所属し、国際交流委員会の主担当者、ラグビー部顧問等も務めるなどして適応障害を発症した事案です。

 教員の適応障害発症が地方公共団体(実際に監督権限を行使するのは本件高校の校長)の安全配慮義務違反に基づくかが争われた事案です。

 

2 本件のポイント


 安全配慮義務が認められるかを検討するに当たっては、業務の①量的過重性(どのくらいの労働時間だったのか)、②質的過重性(業務内容が心理的負荷がかかるものなのか)が検討されます。

 本件では、前記1で記載したとおり、教員は、内容的に心理的負荷のある多くの種類の業務に従事しており②質的過重性も認められていますが、①量的過重性の判断のあり方に特徴があります。

 具体的には、量的過重性を判断する際の時間について「本件時間外勤務時間が、校長による時間外勤務命令に基づくものではなく、労働基準法上の労働時間と同視することができないことをもって、左右されるものではないというべきである。」と判断した点にあります。

 つまり、①量的過重性を判断する際の時間外労働時間と労働基準法上の労働時間の判断が異なってもよいと指摘しています。

 これにより、①量的過重性を基礎づける時間外労働時間が長く認定される可能性が示されたと言ってよいと思います。

 この判断が持つ意味を、判示を確認しながら、もう少し説明していきます。

 

3 ①量的過重性に関する判断


 ⑴ 給特法関係

 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」といいます。)は、教員に時間外労働時間をさせることができる業務を4つに限定しています(給特法6条1項、公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令)。

 具体的には、①校外実習その他生徒の実習に関する業務、②修学旅行その他学校の行事に関する業務、③職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務、④非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務(以下「超勤4項目」といいます。)です。

 そうすると、所定労働時間外に働いたとしても、超勤4項目に該当しない限り、時間外労働時間(それは、すなわち労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間)に該当しないという理屈が考えられます。そして、まさに被告はこの主張をしました。

 ⑵ 裁判所の考え方

  ア 適正把握要綱

 裁判所の考え方を検討するにあたって、2つ確認しておく必要があります。そのうちの1つは、大阪府が、大阪府立学校に勤務する常勤の一般職に属する教育職員の勤務時間を適正に把握するため、各府立学校における勤務時間の把握のための手続等に関して定めた「勤務時間の適正な把握のための手続等に関する要綱」(以下「適正把握要綱」といいます。)です。 

この5条では、「時間外等実績(常勤教育職員が勤務公署において、正規の勤務時間以外の時間帯に行った業務の時間をいう。2条(3))について、総務事務システムから出力する「教育職員時間外等実績表」により把握するものとする。」と定められています。超勤4項目に限らずに把握するものとされている点が重要です。

  イ 本件ガイドライン

 もう一つとして、文部科学省が(本件発症の後である)平成31年1月25日付け作成した「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(以下「本件ガイドライン」といいます。)があります。

 本件ガイドラインでは「勤務時間」について種々の制限をしているのですが、この「勤務時間」の考え方について「教師の専門職としての専門性や職務の特徴を十分に考慮しつつ、「超勤4項目」以外の業務が長時間化している実態も踏まえ、こうした業務を行う時間を含めて「勤務時間」を適切に把握するためのものと位置付けられた上で、①教師等が校内に在校している在校時間を基本とし、②自己研鑽の時間その他業務外の時間については、自己申告に基づいて除くものとし、③校外での勤務についても、職務として行う研修の参加や児童生徒等の引率等の職務に従事している時間については、時間外勤務命令に基づくもの以外も含めて外形的に把握し、対象として合算し、また、④各地方公共団体で定める方法によるテレワーク等によるものについても合算すること、⑤休憩時間を除くこととした。」という点がこの判決では言及されています。

  ウ 適正把握要綱・本件ガイドラインを踏まえた裁判所の判断

 裁判所は、①量的過重性を検討する際の時間外労働時間について、超勤4項目に該当する時間に限定することなく、本件発症前6か月間における原告の在校時間及び休日校外で部活動指導等の業務に従事した時間から所定の休憩時間(45分)及び自己研さんその他の業務外の活動を行っていた時間並びに法定労働時間(週40時間)を差し引いた時間(以下「本件時間外勤務時間」といいます。)としました。なお、本件時間外勤務時間は以下のとおりでした。
   ア 平成29年6月21日~同年7月20日 112時間44分
   イ 平成29年5月22日~同年6月20日 144時間32分
   ウ 平成29年4月22日~同年5月21日 107時間54分
   エ 平成29年3月23日~同年4月21日  95時間28分
   オ 平成29年2月21日~同年3月22日  50時間58分
   カ 平成29年1月22日~同年2月20日  75時間52分
 このように考えた根拠について、裁判所は次のとおり判示しています。

「適正把握要綱は、常勤教育職員の「時間外等実績」を把握するにあたって、超勤4項目に限らず、OTRの打刻による出退勤の記録等を基礎とし、1月当たりの時間外等実績が80時間を超える常勤教育職員に対してヒアリング等を実施することとしている。そして、前記認定事実(5)によれば、本件発症後に発出されたものではあるものの、本件ガイドラインは、「超勤4項目」以外の業務を行う時間を含めて「勤務時間」を適切に把握するためのものと位置付けられた上で、教育職員の勤務時間の上限の目安時間については、在校等時間から休憩時間及び自己研さんその他の業務外の活動を行っていた時間を差し引いた時間を基本として把握するものとされ、特別の事情に基づく特例的な扱いの場合であっても、1か月の在校等時間の総時間から条例等で定められた勤務時間の総時間を減じた時間が100時間未満であるとともに、連続する複数月(2か月、4か月、5か月、6か月)のそれぞれの期間について、各月の在校等時間の総時間から条例等で定められた各月の勤務時間の総時間を減じた時間の1か月当たりの平均が、80時間を超えないようにすることとされている。上記適正把握要綱の内容に加えて、本件ガイドラインが発出された趣旨や、その背景にある考え方をみても、本件高校において、勤務時間管理者である校長が、教育職員の業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積してその心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(安全配慮義務)の履行の判断に際しては、本件時間外勤務時間をもって業務の量的過重性を評価するのが相当であり、本件時間外勤務時間が、校長による時間外勤務命令に基づくものではなく、労働基準法上の労働時間と同視することができないことをもって、左右されるものではないというべきである。」

 以上の考え方に基づいて、超勤4項目に該当しないと考えられる所定始業時刻より前の準備時間、土日や休日に部活や補講の指導等の業務を行った時間、部活動の指導等で校外に出張した時間等が、量的過重性を判断する際の基礎となる時間と認定されました。

 

4 コメント


 安全配慮義務違反があったかを判断するにあたって、監督権限を行使する校長が業務の量的・質的過重性を認識・予見しえたことが必要です。本件では、超勤4項目に限定されない時間外等実績を校長が把握することになっていたために、時間外等実績に該当する事実に基づいて安全配慮義務が認められたと考えられます。

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