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【労災、残業代、トラックドライバー】給付基礎日額の算定において、通常発生する時間外相当額として支給すると記載された運行時間外手当を通常の労働時間の賃金と解した国・所沢労基署長(埼九運輸)事件・東京地判令和4年1月18日労働判例1285号81頁を解説します。

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1 はじめに


 労災認定された場合、例えば、休業することにより賃金が得られなかったことについて補填するもの等として休業補償給付等が支給されますが、これは、給付基礎日額×休業日×80%(正確には、休業補償給付分が60%、休業特別支給金分が20%)で計算されます。

 給付基礎日額は、原則として労働基準法の平均賃金(労基法12条1項)となりますが、これは、労災事故が発生した日(精神疾患の場合には発病時と判断された日)の直前3カ月間に、その労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割り、算出します。

 この給付基礎日額を計算するにあたり、残業代(割増賃金)名目で支払われた金員が、残業代(割増賃金)を計算する基礎となる賃金(以下「基礎賃金」といいます。)に該当するか否かで給付基礎日額が大きく変わる可能性があります。

 例えば、基本給15万円、固定残業代15万円の合計30万円が月の賃金として支払われていた場合、基本給15万円のみが基礎賃金であれば、給付基礎日額は、

15万円×3か月÷90日(※)×80%=4,000円

※この90日は暦によって変動します。

ですが、固定残業代15万円を含めることになれば、

30万円×3か月÷90日(※)×80%=8,000円

となり、大きな差が生じます。

 このように、残業代(割増賃金)として支払われた金員が、基礎賃金に該当するかが争われたのが本件となります。

 

2 事案の概要


 平成28年10月、労働者Xが運送会社Yへ入社した際に交付された労働契約書には、「基本給14万1800円、評価給1万6800円、運行時間外手当 14万9900円」と記載されており、「運行時間外手当」は、「通常発生する時間外相当額として支給する」、「含まれる時間外労働時間数=(運行時間外手当)÷ ((基本給+評価給)÷月平均労働時間数×1.25)」 と記載されていました。

 また、同じ内容がYの賃金規程にもあり「ただし、所定の計算方法によって算出された金額に満たない場合は、その差額を支給する」とされていました。

 Xは、平成28年12月から29年3月頃までの間に約97時間から約110時間の法定時間外労働を行っており、同年3月29日に不安定狭心症を発症し、同日から休業していました。  

 この間、同年2月にX は基本給が昇給して14万7700円 (5900円の増額) とされるとともに、運行時間外手当が14万4000円 (5900円の減額)となりました。

 

3 裁判所の判断


 裁判所は以下のとおり判示し、運行時間外手当が割増賃金の算定の基礎となる賃金(≒通常の労働時間の賃金)に該当すると判断しました。

 ⑴ 「運行時間外手当」は何の対価なのか

 運行時間外手当は、法定内時間外勤務、法定外時間外勤務、深夜勤務および休日勤務に対する対価であるとYが主張しました(仮に被告の主張どおりだったとすると、運行時間外手当は、法定時間外勤務だけでなく、法定内時間外勤務、深夜勤務および休日勤務に対する対価を含む、つまり、多くの割増賃金の対象となる労働を把握した手当ということになりますが、そうなれば、運行時間外手当の額が多額であったとしても、労働実態に合致しやすくなり、運行時間外手当が残業代(割増賃金)の性質を持ちやすいという趣旨の主張であると思われます。)。

 これに対して、裁判所は、賃金規程には「時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当が別個に定められていること」、「1.25という係数が法定外時間外労働をする場合の係数であること」から、運行時間外手当における「時間外」とは「法定外時間外勤務をいうものと認めるのが相当」であり、「運行時間外手当は、法定外時間外勤務に対する対価であって、このほかに法定内時間外勤務, 深夜勤務及び休日勤務に対する対価も含むものと認めることはできない」としました。

 また、Yにおける「Xのあらゆる種類の残業代は全て運行時間外手当に含まれ」るという認識は、「本件契約書及び本件賃金規程の記載とは明らかに一致」せず、「本件会社がXに対して運行時間外手当が法定内時間外勤務、法定外時間外勤務、深夜勤務及び休日勤務に対する対価である旨を説明したことを認めるに足りる証拠はない」ことから、「運行時間外手当が、法定内時間外 法定外時間外勤務,深夜勤務及び休日勤務に対する対価として支払われるもの・・・と認めることはできない」と判示しました。

⑵ 大型運転免許保有者に対する賃金としては低すぎるという観点

 判決は、月平均労働時間からXに支払われている基本給および評価給をもとに1時間当たりの賃金額を算出しほぼ最低賃金の水準にあることを理由に、「大型運転免許とフォークリフト免許という特殊な免許を持つトラック運転手であるX(・・・・・・) の時給としては明らかに低額にすぎる」としました。

⑶ 過労死ライン等を超えるとの観点

 また、「運行時間外手当に含まれる法定外時間外労働時間数は約 131.38時間」であることに言及し、これがYにおける三六協定が定める上限90時間と「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(・・・・・・)の認定基準について」が定める1か月100時間という「時間外労働時間の基準すら超えるものである」と指摘しました。

⑷ 基本給に切り替えたとの観点

 そして、平成29年2月に行われたXの基本給の昇給と同額の運行時間外手当の減給について「これは昇給の在り方としては不自然というほかな」く、「本件会社は裏付けなく運行時間外手当の一部を基本給に割り替えたものであって、運行時間外手当には基本給に相当するものが含まれていることが推認される」としました。

 以上の各観点から、「運行時間外手当」には、法定外時間外勤務に対する対価以外のものを相当程度含んでおり、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の割増賃金に当たる部分を判別できないから、運行時間外手当によって残業代が支払われたということはできないとしました。

 

4 その他


 この記事と関連する記事として、【労災、残業代】給付基礎日額の算定において、時間外・深夜・休日の割増賃金であると明記されていた職務手当等を平均賃金の基礎とした国・渋谷労基署長(カスタマーズディライト)事件・東京地判令和5年1月26日労働判例1307号5頁を解説します。 (fukuoka-roudou.com)【残業代、トラックドライバー】トラック運転手の「残業手当」名目の賃金が固定残業代の定めとして無効とされた染谷梱包事件・東京地判令和5年3月29日労経速2536号28頁を解説します。 (fukuoka-roudou.com)があります。

 

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