【労災、うつ病】恒常的超時間労働がありながら編集業務から掃除等の雑用を行う閑職に配置転換され給与月額が5万円減少した労働者のうつ病発症について労災と認めた国・京都上労基署長事件・京都地裁令和5年11月14日労経速2541号10頁を解説します。
1 はじめに
能力不足を理由に閑職に配置転換された場合、心理的負荷があるといえるでしょうか。仕事が少なくなるため、心理的負荷がないのではないかとも考えられます。
しかし、本件では、能力不足を理由に編集業務から掃除等の雑用を行う閑職に配置転換され給与月額が5万円減少した労働者のうつ病発症について労災と認めました。
裁判所がどのように考えたのかを解説します。
2 裁判所の判断方法
⑴ 判断枠組み
裁判所は、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(当時は平成23年12月256日基発1226第1号でしたが、現在は001140929.pdf (mhlw.go.jp)になっています。)の内容が合理的であるから、これに該当すれば特段の事情がない限り業務起因性が認められる(労災と認められる)と解するのが相当であるとしました。
そして、裁判所は、「具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価され、かつ、出来事の前に恒常的長時間労働が認められ、出来事後すぐに(出来事後おおむね10日以内に)発病に至っている場合」という認定基準の要件に該当するかを検討しました。なお、恒常的長時間労働とは、特定の日を起算日として、それから1ヵ月以内の時間外労働がおおむね100時間となる場合を指します(恒常的長時間労働については、【労災】精神障害の労災認定基準のうち重要な時間外労働時間について説明します。 (fukuoka-roudou.com)参照)。
⑵ 配置転換の心理的負荷
そこで、能力不足を理由に編集業務から掃除等の雑用を行う閑職に配置転換されたことの心理的負荷が「中」になるかを検討しました。
このときの認定基準では、21番「配置転換があった」については、「左遷された(明らかな降格であって配置転換としては異例なものであり、職場内で孤立した状況になった)」に該当すれば「強」でした。以下のとおりです。
裁判所は、「原告は写真の技術を評価されて本件事業所において編集業務に携わっていたところ、平成27年4月中旬頃、総務に配置転換され、かつ、その業務は、納品等のほかは掃除等の雑用仕事が中心の閑職であり、給与としても編集手当相当額である月額5万円の減額を伴うものであったから、このような配置転換は、「配置転換としては異例なものである」とまではいえないものの、「明らかな降格であって、職場内で孤立した状況になった」ものであり、少なくとも心理的負荷強度は「中」であるというべきである。」としました。
⑶ 被告の主張に対する判断
この点について、被告は、①上司から評価されていた撮影の仕事まで外していない、②収入の減少が現実化するのはもう少し後であるから心理的負荷が「中」ではないと主張しました。
裁判所は、①に対して「写真撮影の業務を行う際には編集業務への復帰という扱いがされており、総務への配置転換の際に、カメラマンとしての取材への同行などは予定されていなかったことがうかがわれる。」などとして、「原告の技能(写真撮影)を生かすような業務上の配慮がされていたことも見受けられない」としました。
また、②に対しては「給与の増減は一般的には給与労働者の最大の関心事の一つであることからすれば、配置転換に関する心理的負荷の強度を評価する上で、当該配置転換によって見込まれる実収入の増減の程度を考慮することは十分に合理性があるものである。」としました。